『パパの瞳、抜け出した夜』



 ギシギシとベッドのスプリングが音を立てて軋む。
 それはまるで、行為の激しさを物語っているかのよう。

「あぁぁん!  ……っはっん、ぁっぁ!」

 大きく膝を割られ、その足の間に居るパパが動く度に私の口からは甘い声が零れる。

「ん、んっぁっ……!」

(やっぱり、今日は何かが違う……)

 胎内の奥を突かれ揺さぶられながらも、心が満たされない。
 パパの体温も吐息も、全て同じ筈なのに。それなのに、少しも心が満たされない。
 パパが私を見てないから―――
 胎内の感じる部分を重点摘的に突かれ、一方的に追い上げられる。

「あっ! あぁっ、も…イッちゃ……んっパパ、お願い……」

 一人でイキたくないのに。もっと抱き合っていたいのに。なのにパパは、早急に私の快感を高めて行く。

(どうして?)

 不安で、抱き締めて欲しくてパパの名前を呼ぶ。
 一方的に追い詰めないで欲しいと。一緒に絶頂を迎えたいのだと。
 だけど、パパは私がイキたいと懇願していると思ったのか、躊躇うことなく内壁を穿つ動きを速めた。

「ちがっ!  ひゃぁ…んぁ、ぁぁあ…んんっ!」

 グチュグチュと言う卑猥な水音と、肌のぶつかり合う音が響く。
 いつもなら私のペースに合わせてくれるのに。

(こんな一方的なの、全然満たされないよ。パパ……)

「パ…パ……。あぁっ……、あんっ!」

 心は満たされなくても、浅ましい私の身体はパパから与えられる快楽によって甘く溶け出し、昇りつめていく。

「あっ、ひっ…あぁぁぁっ!」

 弱い所を強く抉られ、私は悲鳴を上げて絶頂を迎えた。
 パパも私がイッたことで膣内が絞まり、終わりを迎える。
 胎内の奥深いところでゴム越しに断続的に注がれる熱いものを受け止め、私はそのまま意識を逃していった。


***


「ん……」

 サイドボードに置かれた照明の淡い光に包まれながら、私は目を醒ました。

(いつの間に眠っていたの?)

「パパ?」

 隣に眠っている筈のパパの方を見る。しかし、そこにパパの姿は無かった。
 そっと、シーツに触れる。触れたシーツは既に冷たくて、大分前にパパがベッドを出たことを示していた。

「こんなこと……、初めて」

 行為の後、深夜に目覚めてもいつもパパは隣に居てくれたのに……
 時計を見ると、時刻は午前三時半。あれから、そんなに時間は経っていないようだ。
 ベッドを出て、パパの姿を探す。
 廊下に出ると、隣の書斎から薄らと光りが漏れているのが見えた。

(また、仕事?)

 薄く開いているの扉から、部屋の中を覗く。
 そこには、食い入るようにパソコンの画面を見詰めながらキーボードを打つパパの姿。

(私と眠る時間よりも、仕事の方が大切なの?)

「……パパ」

 思わず囁いた声は余りにも小さくて、パパの耳に届くことはなかった。
 いつも溢れんばかりの愛情を注いでくれているから、少しの行き違いがとても辛い。
 パパは優しいから、今行けば「眠れないの?」って言って一緒に眠ってくれるだろう。でも、私が眠ったらまた仕事に戻ってしまうのかもしれない。
 次も目覚めた時に、パパが居ないなんて耐えられない。
 何より、パパの仕事の邪魔をしたくなかった。

(パパの邪魔はしたくないから。だから、声をかけちゃ駄目)

 しかし、既に目は完全に覚めている為、ベッドに戻っても眠れそうになかった。

「コンビニにでも行こっかな……」

 気分を変えるのにも良いかもしれないと思う。

(この分だと、朝までパパは書斎から出て来ないだろうし……)

 こうして私は、着替えてから静かに家を抜け出した――



*END*



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