『プレゼント』(5)



 ブックマークと言っても様々なタイプがある。
 四角い小さな銀色のプレートに革紐が付いているのもあれば、緩やかな曲線を描いた銀色の細い棒の先にマスコットの付いたもの等、使われている素材やデザインも様々だ。

「へぇ〜、栞っていろんなデザインがあるんだね」

「そうだな。人によって好みが違うし、どうしても種類が多くなるんじゃないか?」

(こんなに種類があると迷っちゃうな……)

 どれも洗練されたデザインで選ぶのが難しい。
 どれが良いだろうと綺麗に並べられたブックマークを端から見ていると、ある種類のブックマークが目に留まった。

「革紐って落ち着いてて格好良いよね。これなんてプレートに十字架が彫られてるよ。挟む部分って使う人以外は見えないのに……、オシャレだよね」

(何だかコレ、長堀君好きそう)

 花白が手に取ったのは黒い革紐のブックマークだ。
 本に挟む部分には四角い小さな銀色のプレートが付いている。
 プレートの右端には十字架が彫られており、十字の中心には水色の小さな石が埋め込まれている。
 また、プレートとは反対側の革紐の先には、十字架のチャームが付いている。そこにもプレートと同様にクロスの中心に水色の石が埋め込まれていた。
 花白の持つブックマークを見て、千早が「良いよな、それ」と頷いた。

「俺も最初に目が行った」

「うん、何か長堀君っぽいよね」

「何だよ俺っぽいって……」

「ふふ。悪い意味じゃないよ。何て言うか、長堀君にピッタリだなって」

 千早はいつも十字架や百合等をかたどったゴツゴツとしたシルバーアクセサリーを着けているからか、彼イコールそう言うイメージと言う図式が頭の中で出来上がってしまっている。

「ふぅん。なら良いけど。もしチャラチャラしてるからっつったらタダじゃおかないところだったぜ」

「髪の毛もそんな金髪で、アクセサリーじゃらじゃら着けてるのにチャラチャラしてないって言われても、全然説得力ないよ……いったぁい!」

 左手で頭を鷲掴みされ、少し力を込めて押される。
 途端、ギギギ…と頭が悲鳴を上げた。

「ヤダ痛い痛い痛い!」

(ヤダこれ、本っ当に痛い〜!)

 目尻に涙が浮かんだ頃、漸く痛みから解放された。と言っても、時間にすれば十秒も経っていないのだが。
 利き手ではないし、然程力も入っていなかったのだろうが、初めての経験に驚いたと言うのも大きい。

「そんな痛かったか? 力殆んど入れてなかったんだけど。つーか、そもそも俺をチャラいとか言ったお前が悪い!」

「そっ、そんなにハッキリとは言ってない! すっごく痛かったんだから! ……っあれ?」

 痛みを和らげようと両手で頭を撫でようとしたところで、花白はあることに気付く。
 左手に何か違和感がある。
 可笑しいなと思い視線を左手に持って行き、原因を確認した途端花白は言葉を失った。

「――――っ?!」

(なっ、何で私……長堀君の右手首を掴んでるの―――?!)

 ブックマークコーナーに移動して早五分。やっと花白は自分のしてしまった大胆な行動に気付いたのだった。

「うそっ! いや……、あのっ違うの!」

 掴んでいた手を慌てて離し、勢い良く両手を横に振る。

「水瀬って案外、大胆だったんだな」

 自分の手首と花白の顔を交互に見つめ、千早が笑う。

(――――ひぃっ?!)

「だから、違うの! 無意識だったの!」

「あぁ……。俺の手首を無意識に掴むくらい、俺のこと好きだったんだ?」

(だからっ、違うのに〜〜〜!)

 言葉を重ねれば重ねる程、言い訳がましく聞こえてしまうのは何故なのだろう。
 誤解を解きたいだけなのに、どんどん深みにはまって行っている気がする。

「本当に違うの! 私にはちゃんと恋人が居るの! 長堀君のことは好きじゃないの!」

 言い切った。まさにそんな言葉がピッタリな程に、声に出せば胸がスッとした。

「いや、前々から水瀬に彼氏が居るのは知ってたけど。まぁ、それ知っててからかった俺も悪いとは思うけど、そんな大声で嫌いって言われると、流石に俺だって傷つくぜ」



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