『プレゼント』(3)
***
“聖末通り”は、聖末学園第一駅のそばにある通りだ。
通りには学園に通うSP組の生徒が店主を務める店が建ち並んでいる。
才能はあるが、まだ自分では店を持てない生徒の為に学園側が店舗を無料で貸し出しているのだ。
花白と千早が最初に立ち寄ったのは、花白がよく行っているファンシー雑貨のお店だった。
店内にはピンクや白を基調とした品物が多く、それら全ては店主のハンドメイド作品だ。鍋敷きや鍋掴み、ハンドバック等が並んでいる。
「あっ! 長堀君、見て見て! この鍋掴み可愛い〜。レース付いてる」
「却下。父親へのプレゼントに、そんなファンシーなのいらねーだろ。少女趣味な父親なら俺は止めねーけどな」
「パパは少女趣味じゃないもん!」
店内に入り、目についた新作のピンクの花柄を鍋掴みを手に取って千早に見せると、即座に「却下」との判断が下り、花白は反論しながらもスゴスゴと棚に鍋掴みを戻した。
「蓮ちゃんへのプレゼントなら迷わないのにな〜」
蓮へのプレゼントなら、彼女の好みを把握しているので選ぶのは容易い。
だが、蓮よりも付き合いの長い英の好みを把握していても、選ぶのが難しい。
品物を手に取っても、常に「本当にこれでいいのだろうか」と言う不安が付きまとい、購入への一歩が踏み出せないのだ。
「同性だからな。そもそも父親のプレゼントを選ぶのに、こんなファンシーな店はないだろ。次の店行くぞ。時間は限られてるんだからな」
時刻は間もなく夕方の五時。特に門限はないが、花白の家では六時半には夕食だ。その為、六時半前には帰宅するのが暗黙のルールとなっている。
帰宅時間を考えると、タイムリミットは後一時間。千早の言う通り、残された時間は少ない。
「む〜。あっ、待ってってば長堀君!」
一人スタスタと店を後にする千早に、花白は慌ててその背中を追いかけた。
「ねぇってば! 待ってよ長堀君!」
人通りの多い道を、千早がスタスタと歩いて行く。
人混みに埋もれて時折見えなくなる千早を、花白は小走りに追いかけた。
夕方の聖末通りは仕事帰りの社会人や近隣の学生達で混み合う為、歩幅の違いからも小柄な花白が千早のペースに付いて行くのは容易なことではない。
「長堀君!」
足がもつれそうになりながらも何とか追い掛けていると、千早がある店で足を止めた。
「や……、やっと追いついた。もぉ、男の人とは歩幅が違うんだからもう少しゆっくり歩いてくれても良いでしょう?」
先程まで居た店からさほど離れてはいないのだが、人混みのせいでとても遠くに感じられた。
「あぁ、悪い。早くしないとこの店閉まっちまうからさ」
「この店って? ここ?」
「そう。ここ」
千早が立ち止まったのは白い外観の建物だ。窓も無く、あるのは黒い扉一つだけ。
店名も、何を売っている店なのかも分からない。
(ここって、空き店舗なんじゃ……)
「でもここ、もう閉まってるんじゃないの? 扉に掛けられてるプレート、CLOSEになってるよ」
閉まるも何も、そもそも花白はこの店が開いている所を見たことが無い。
常に店の扉にはCLOSEと書かれたプレートが掛けられている為、ずっと空き店舗だと思っていた。
「あぁ、あいつ人間嫌いだからな。常にここは店主が中に居ながらにCLOSEだぜ」
ニヤリと口元に笑みを浮かべながら、千早がノブに手を掛ける。
普通ならば、CLOSEと書かれていれば絶対に開くことの無い扉。
(店主が中に居ながらに、常にCLOSE?)
「ねぇ、長堀君。人間嫌いって? ここって何のお店なの?」
全く意味が分からない。そう目で問うても、千早は楽しそうに口元に笑みを浮かべたままだ。
「まぁ、入れば分かるって」
「入れば分かるって……。長堀君、早くしないと閉まるってさっき言ってたけど、そもそもここ、最初から閉まってるんだよ?」
(本当に大丈夫なの?)
先程から千早は、何を言っているのだろうか。
人間嫌いだから常に店をCLOSEにしている店主。
それならば何故、その人は店を持っているのだろうか。
(それって、店を持ってる意味って無いよね?)
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