『プレゼント』(2)



「お前……もしかして知ってるのか?」

 思い詰めた顔をする千早に、花白は首を傾げた。
 その顔色は少し青い。

「知ってるって……何を?」

「だから、霜月に……」

「蓮ちゃん?」

(どうしてここに蓮ちゃんが出てくるの?)

 千早の父親と蓮は関係がないはずなのに、なぜここで蓮の話が出てくるのだろう。
 ふと、花白の頭の中である可能性が生まれた。

(もしかして……)

「もしかして長堀君も蓮ちゃんに恋愛相談してたの? どうしたらお父さんの恋人さんと仲良くなれるかとか」

「―――は?」

「そうだよね。男友達には相談しづらいよね。蓮ちゃん口かたいし、考え方大人だし。うん、相談事には最適だよ」

 それなら納得だと花白は大きく頷いた。

「あぁ、うん。そうそう。下手に親父のこと知ってる奴に相談してちゃかされるよりも、何も知らない霜月の方が相談しやすいからな」

 いきなりの質問に千早は内心面食らっていたのだが、花白が誤解していることをこれ幸いと相槌を打った。
 まさかその恋人から父親への恋愛相談を受けているとは絶対に言えない。

「蓮ちゃんのアドバイス聞くと色々と気付かされるよね。そういう捉え方もあるのか〜、とか」

「第三者だから客観的だしな」

「うん。恋愛相談って女友達にもし難いけど、蓮ちゃんが居てくれてよかった。いつか蓮ちゃんも私に恋愛相談してくれるかな……。蓮ちゃん恋人さん居るみたいだけど、社会人ってことしか教えてくれないし。私じゃ駄目なのかな……」

 言いながら、花白は瞳を伏せた。
 蓮に恋人が居ることは一年生の頃から知っている。
 三年生になった今でも、蓮がその人と交際しているであろうことは雰囲気で分かる。だが、蓮の口から相手のことが話題になることは無かった。
 しつこく食い下がった結果、この二年半の間に聞き出せた情報は、相手が社会人であるということだけだ。

 花白は英と想いを通わせてから蓮を家へと招待した。
 勿論英を恋人として紹介する為だ。言い出したのは英で、花白の恋愛相談に乗って貰っていたお礼を兼ねてお茶会を開いたのだった。
 蓮は学園での花白の様子を多少面白く脚色して話し、英は終始にこやかに聞いていた。

 自分の恋を蓮に打ち明けたように、蓮にもそれを望むのは贅沢なことだろうか。それとも、信用がないのだろうか。

「水瀬には……、いつか紹介してくれると思う。相手が社会人なら、未成年者との交際とか色々と問題になることもあるしな。相手の迷惑になりたくないから、水瀬には言えないんだと思う。そうだとしたら、それは信用云々の話しじゃない」

「そうなのかな……」

 相手が社会人だから、迂濶に話すことが出来ないのだろうか。
 だが、千早の言葉を聞いているとそうかもしれないとも思う。
 千早も花白も、蓮と友人になった時期は同じなのに、時々千早の方が蓮のことを理解しているような気がする。

「心配なら霜月に聞け。本音で聞けば、きちんと答えてくれるさ。霜月はそういう奴だし、水瀬は霜月の親友だから、誤魔化されたりしないだろ」

「蓮ちゃんも長堀君を親友だと思ってるよ。私ともそうだと思ってる」

 高等部からの付き合いだが、千早とは蓮を通じて交流を持つようになった。
 最初、千早は蓮をライバル視して接触してきたようだったが、いつの間にか時々三人で昼食を食べる仲にまでなっていた。

「水瀬とはいいけど、霜月とは御免こうむりたいね」

「長堀君は素直じゃないね」

(そうなら嬉しいと思ってるくせに……。耳が赤いからバレバレだよ)

「素直じゃない俺は俺じゃないんでね」

「んじゃ、そろそろ行こうぜ」

「え? 行くって、何処に?」

「そりゃ、水瀬の親父さんの誕生日プレゼントを買いにに決ってるだろ」

「えぇっ! わ、悪いよ……」

 千早の申し出は嬉しいが、さっきまで相談に乗って貰っていたのだ。これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。
 いいよと手を振る花白の心を見透かしたように、千早が言う。

「今日は暇だし、なんかほっておけないんだよ。つーか、このままじゃ今日も買い損ねるの必至だろ。……迷惑か?」

 眉を下げられ、迷惑かとまで言われてしまえば、こちらも断り難い。

(そんな捨てられた子犬みたいな顔しないでよ……)

 千早の言う通り、このままでは今日も英への誕生日プレゼントは決らないだろうと自分でも思う。
 それなら、千早の優しさに甘えて異性の視点からプレゼントを一緒に選んで貰う方がいいのかもしれない。

「うぅん。有難う、長堀君」

 お礼を言えば、グシャリと頭を撫でられる。
 いつも頭を優しく撫でてくれる英の手つきとは違い、千早の手つきは少し乱暴だ。

「いいってことよ。早く行こうぜ」

「うん」

 通学鞄を持ち、花白は千早と一緒に夕日の差し込む教室をあとにした。



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