『僕の花【B】』
カーテンが少しずつ赤く染まってくる。
もうじき、夜が明ける。
「んぅ……」
傍らで眠っている花白ちゃんが身じろき、薄らと目を開ける。
「花白ちゃん?」
僕の声に、視点の定まらない目でこちらを見る。
「パ、パ?」
舌ったらずな口調で、花白ちゃんが懸命に話し出す。
「あのね、ママの夢を見てたの。ママがパパに強引に結婚を迫られたんだって話してくれた時のこと……」
「――――っ!?」
とんだ誤解だ。強引に迫った記憶など全くない。
「……百合さんめ」
(自分に都合よく有ること無いこと吹き込んだな。全く、百合さんらしい)
「ねぇ、パパ。私にはママにしたみたいにプロポーズしてくれる?」
今にも泣き出してしまいそうな声で、小さく問われる。
(駄目だ……。どうしようもなく、本当に可愛い)
「花白ちゃんが大好きだよ。だから、花白ちゃんが高等部を卒業した日に、僕から婚約指輪を受け取ってくれる?」
花白ちゃんの左手を手に取り、薬指に口づけを落とす。
「………」
「花白ちゃん?」
返事が無いことを怪訝に思い顔を上げると、そこには寝息を立てる花白ちゃんの姿があった。
「返事は保留、かな」
それ以前に、朝目覚めて今のやり取りを覚えているかさえ怪しい。
けれど、焦ることはない。その日は必ず訪れるのだから。
その時、花白ちゃんはどんな表情をするのだろうか――
*END*
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