『百合さんとの出会い』



『貴方が堤さんですか? 初めまして。氷済(ひょうずみ)グループ秘書室室長、水瀬百合と申します』

 控え目なグレーのスーツを着こなし、胸元には品の良い小さな十字架のネックレス。十字架の中心部分には、一粒のダイヤモンドが埋め込まれていた。
 髪は後ろにコンコルドで纏められている。地味な姿である筈なのに、人を引き寄せる確かな存在感があった。
 彼女が胸ポケットからさり気なく名刺を取り出す仕種――、流れるように席に案内する姿。その全てが、思い描く主人公のイメージと一致した。
 一通りの取材が済み、雑談を交えた話を交わした。

『貴方の本、読ませて貰ったわ。新作のプロローグ、あれって最後の主人公の独白に繋がっているのね』

 「面白い解釈だわ」と、クスリ…と小さく笑われる。

(まさか、わざわざ自分の作品を読んでくれていただなんて……)

『水瀬さんが初めてです。友人や担当さんにも、繋がりがあるなんて気付いて貰えませんでした』

 逆に難解すぎるとクレームを付けられた程だった。

『そうなの? 貴方と考えが似ているからかもしれないわね』

 事実、彼女とは共通点も多く、取材が終っても友人として連絡を取り合う仲になっていった。

 ずっと歳の離れた友人として付き合いが続くのだと思っていた――

(彼女の儚い、あの一面を見るまでは……)



*END*



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