『パパとの日常』
今でも、貴方との出会いを覚えてる。
「こんにちは、花白(はなしろ)ちゃん。初めまして、僕は堤 英(つつみ えい)って言います。今日から僕が、花白ちゃんのパパになっても良いですか?」
私と同じ目線の高さに膝を折って、優しく話しかけてくれた人。
私は、ママの再婚相手―――“パパ”に恋をした。
***
――あの日から五年後、私は十五歳になった。
「やっぱこの制服可愛い。苦労して入ってよかったぁ」
自室に置かれた長方形の大きな鏡の前で、服装の最終チェックをする。
テレビゲームの中でしかないような、白を基調として黒いリボンとレースをあしらった可愛らしい制服だ。
入学して一ヶ月経つけれど、未だに慣れない。
「花白ちゃーん。そろそろ時間だよー」
階下からパパの声がする。
私は急いで鞄を持ち、ママの写真立てに向かって挨拶をした。
「行ってきます、ママ」
ママは四年前に病気で逝ってしまった。十一歳の私と、二十三歳のパパを残して……
親戚の人達とは仲が良かったから、結婚して僅か一年でママを亡くしたまだ若いパパのことを考えて、私を引き取ろうとしてくれた。
でも、パパは皆に頭を下げて、私を育てさせて欲しいと言ってくれたの。
『僕はこれでもこの子の父親です。この子が僕を必要としなくなる日まで、僕が守ります。ですから、お願いします』
嬉しかった。
例え、ママへの責任感からだとしても―――
「お早う、パパ」
いつものようにダイニングに行くと、煎れたての珈琲と焼きたてのパンの香りがした。
「お早う。花白ちゃん」
カウンターキッチンの中には、スーツの上着を脱ぎ、シャツの袖を捲った姿のパパ。
手には私のお弁当箱を持っている。勿論、お弁当はパパの手作り。
パパは今年、二十七歳になる。職業は、おっとりとした性格に不似合いなミステリー作家。
映画化やドラマ化も多くされていて、最近何とか賞を取ったらしい。
「花白ちゃん、今日の予定は?」
パパと一日の予定を確認し合うのは、毎朝の日課。
「学校だけだよ。パパは?」
「今日は出版社のパーティーに出席するから、夕食は悪いけど一人で食べてくれるかな?」
二人しか居ないから、ご飯は出来るだけ揃って食べることにしている。
パパは締切前で忙しくても、一緒に食べてくれるしご飯やお弁当もちゃんと作ってくれるの。
「分かった。気をつけてね」
一人での食事は寂しいけど、パパを困らせてしまうから、私は笑顔で答えた。
「花白ちゃんはいい子だね」
パパが私に微笑み返してくれる。
その笑顔に、ドキリと胸が高鳴った。
(イヤイヤ、朝からその笑顔は犯罪だから!)
パパの笑顔に思わず照れてしまう。
パパに“良い子”と言われるのが好き。パパの為にそうでありたいと思う。
でもそれは、同時に私がただの“子ども”でしかないと言う意味を持つ。
三人がけのテーブルは小さくて、向かい合って座る距離は近いのに、私とパパの距離はとても遠い。
*END*
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