「第三話 “奏”」(2



(あの日から、……私に自由なんて無い)

 学校にも行けず、家からも殆ど出して貰えない生活。家は奏にとって『鳥籠』でしか無かった。

「帰れなくても、貴方から逃げることは出来ます」

 真っ直ぐに、圧し掛かってくる男の顔を見上げる。

「そうだな。なら、お前を逃がさないように私も罠を張り巡らそう」

 楽しそうに、珀明は顔を伏せ奏の首に口づけを落とした。
 チクリと肌を吸われ、花びらの形に跡がつけられる。

「罠?」

「そう。お前に私の意に添わないことをすれば、その者に罰を与える。今日なら、お前の食が進む料理を作れなかったとシェフや給仕のメイドを罰したり、な」

(私のことを考えて食事を作ってくれて、気遣ってくれるあの人たちを……。あの人たちは貴方を主と慕っているのに……)

「そんなの、酷い……」

(私のせいで……)

「ならば私に逆らわないことだ。お前は他人に迷惑をかけることを善しとしない性分のようだからな」

「死神……」

(人を跪かせる、噂通り冷たい……冷酷な人)

「……そうだな」

「いやぁっ!」

 胸元に手をかけられ、一気に引っ張られる。
 薄いピンク色のワンピースが鈍い音をさせて引き裂かれた。

「嫌……やめて!」

 珀明は奏の言葉を無視して下肢を割り、慎ましく閉じている蕾に指を入れた。
 粘膜を引っ掻くように指で刺激され、珀明によって開発された身体に快感が込み上げてくる。

「んっ……いやぁ……!」

 わざと大きく指を動かされ、卑猥な水音が耳に届く。
 きっとこれは、珀明に逆らった罰   
 涙で霞んだ視界の先には、不機嫌そうな珀明の顔。

「もう濡れ始めている。……とんだ淫乱だな」

「ちがっ……!」

 快楽に馴らされた身体は、少しの愛撫で愛液が溢れてくる。
 珀明は奏の両足を抱え上げ、蕾に楔を押し当てた。

「んぅっ!」

 楔が、奏の蕾を割り開く。
 全てを収め、異物感に慣れる前に抽挿が開始される。

「あっ……、あぁ……!」

 奥に入った楔が引き抜かれ、また奥まで押し入られる。
 灼熱の楔に、何度も内壁を擦られる。

「あんっ! ……ああっ、もぅ……やめて」

 珀明は奏の喘ぐ反応を見ながら、内壁を抉るように貫いていく。

「あぁっ! ああ……ん」

 感じすぎて、自分を見失いそうで怖い。次第に楔の抜き差しが激しくなる。
 奏は首を左右に振り、快楽から逃れるように窓の方を見た。

「ふぅ……あんっ、はぁ……んん 」

 奏は窓を見て、言葉を失った。

「あぁ、今頃気付いたのか」

 奏の喘ぎが止まり、珀明も視線を追って窓を見た。
 昼下がりの晴れ渡った空が見える窓は、カーテンをはためかせて開いていたのだ。

「嫌……!」

 珀明に抱かれ淫らな声を出していたことが、風に乗ってメイドや庭師に届いているかもしれない。余りの恥ずかしさに奏は動揺した。
 身体を固く強張らせる奏を余所に、珀明は腰の動きを再開させる。

「お願い……、やめて! いやぁ……あぁ!」

 ヌチャヌチャという接合音が淫らに室内に響く。

「今更だろう? 誰が毎朝情事に汚れたシーツを替えているんだ?」

 突き付けられる言葉に、涙が出そうになる。

「やめて……」

(聞きたくない……)

「メイドはお前の生理周期も知っている。今日が次の生理の十三日前だってこともな」

 メイドが生理用品を準備しているのだから、生理周期を知られていても不思議では無い。けれど―――

(生理の十三日前って……?)

「あんっ……んっ、どう言う……」

「お前はそんなこともし知らないのか? 私に望まれて抱かれていないお前には重要なことだろうに。一般的に、生理の始まる十二〜十六日前が危険日。つまり、排卵日だ」

(排卵日って……)

 ゾッと背筋が寒くなる。

「いや、やめて……放して!」

 珀明の身体を退かそうともがいても、楔で繋げられ腕を押さえ付けられていては逃げられない。
 容赦なくナカを穿たれ、子宮口を突き上げられる。ナカの楔が内壁を擦り、最奥目掛けて激しく抜き差しを繰り返す。
 珀明も限界が近いのだ。

「あぁっ! はぁっ……ぁんん、お願い……ナカに出さないで!」

 涙に濡れ、奏の睫毛に涙の雫が掛かる。
 日の光りに照らされた肌は白く光り、今にもどこかへ消えてしまいそうな危うさを感じさせる。

「それは無理だな」

 珀明は奏の身体を力強く抱き締めながら、刻みつけるように最奥に白濁を放った。

「あ、あぁぁ―――!」

 その瞬間、奏の潤んだ瞳が大きく揺れる。そして、全てを諦めたように瞳を閉じた―――


***


 十年前のあの日、『瑪瑙』は“奏”になった。
 儀式の後、両親の悲しそうな顔を見ていたくなくて奏は一人本家の屋敷を出た。
 広い中庭の池の側にある岩の陰に隠れて泣いていた。

「ふ……ぅっ……っ。“奏”の力なんて要らないのに……」

 人を言葉によって縛ることの出来る力。

『そなたは今、この時より『奏』になる。一族の為だけにその力を使い、その生涯を終えなさい』

 胸を突き刺すような、当主の言葉。

「うぅっ……、ふぇっく……」

「誰だ?」

 隠れるように泣いていると、背後の岩の上から声を掛けられた。
 振り返ると、制服に身を包んだ高校生くらいの青年が立っていた。

「お兄ちゃん……誰?」

 青年は隣に座り、優しい手付きで奏の頭を撫でた。
 綺麗な焦げ茶色の瞳を見つめながら、奏は尋ねる。

「俺の方が先に聞いたんだけどな」

 クスリと青年は笑った。

「私は瑪瑙……じゃなくて、か……奏です」

「“奏”? ……君が?」

 驚いたように、少年が声をあげる。

「でも……、奏って新しいお名前よりも、お父さんの下さった瑪瑙ってお名前の方が好きなの……」

 ぎゅっと手を握り、俯く。
 青年は何も言わず、ただ「そう。瑪瑙って言うんだ。君にぴったりだよ」と言ってくれた。



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