『水族館』(2)



「瑪瑙、ここに居たのか」


 背後から聞こえてくる珀明の声に、ビクリと肩が震える。
 振り向くのが、怖くて堪らない。
 きっと傷付けた。
 珀明が奏のもとへ近づいてくる。


「あ……」


 手を伸ばせば触れられる程の距離で、珀明が止まる。
 傷付けたことを早く謝りたいのに、咽喉がつかえたようになかなか言葉が出てこない。


「泣いていたのか?」

「あっ……」


 泣き顔を見られたくなくて、奏は珀明に背中を向けた。


「やっ!」


 後ろを向けば、背後からギュッと珀明に抱き締められる。


「……すまない」

「え……?」


(どうして……、どうして珀明さんが謝るんですか? 悪いのは私なのに……)


 奏は、胸に回された腕をぎゅっと握った。


「私が、悪いんです。……聞きました。ここは珀明さんのお母様のお好きな場所だと」

「そうか……」

「何故、教えて下さらなかったんですか?」


 そうすれば、反対したりしなかった。
 珀明は思い出の場所を守ろうとしただけだから。


「言えるわけがない。……そんな理由で買い取ったなど」


 低く吐き捨てるように、珀明が言った。
 少しだけ、苛立ちを含んだ口ぶり。


(もしかして……)


「照れてるんですか? ……きゃっ!!」


 今度は突然、珀明に抱き上げられる。


「おろして下さい!  珀明さんっ……」


 奏の言葉を無視して、水族館の出入り口へ向かう。
 そして、横付けされていたメルセデスに乗り込んだ。


「出せ」


 運転席に向かって命令し、車が走り出したことを確認すると、運転席から見えないように仕切りを引いた。


「あ……、んっ!」


 そしてすぐにシートに押し倒され、唇を塞がれる。


「ん、……ふぅ……」


 キスをされれば、鼻に掛かった甘えたような声が自分の耳に届く。


「ふぅ……、ん……」


 追い詰められるように舌を絡められる。
 ざらついた舌先で、口内を刺激されれば、身体から力が抜けていく。

 いつもより少し、荒々しいキス。

 唇が離れ、珀明の唇が首筋に移る。
 撫でるように首筋を舐められ、肌を吸われる。


「あぁ……、―――いたっ!」


 肌を吸われ、チクりと肌に痛みが走る。

 珀明の細く長い指がブラウスのボタンを外していく。
 ブラを外されれば、露になった乳房に珀明が顔を寄せた。


「……んっ! あ、あぁっ……!」


 胸の飾りを優しく口に含まれる。
 生温かい舌に頂きを押し潰すように何度も捏ねられ、歯で緩く噛まれる。


「あんっ……、やぁ……あぁん!」


 乳首がぷっくりと尖り、与えられる刺激に奏はかぶりを振った。
 胸を舐められながら、足の間に珀明が触れる。
 スカートを捲り上げられ、下着を取り去らわれる。
 珀明の長い指が、蕾に触れた。


「珀明、さん……んっ…あっ、……あぁ!」


 指が蕾に潜り込み、内壁を掻き回すように動かされる。
 尖った頂きを指で摘まれ、宥めるように舌で舐め上げられる。


「あんっ……あ!」


 上も下も攻められ、次第に指を加えた場所から水音が聞こえ始める。
 愛液が溢れ、珀明の指がスムーズに抜き差しされる。


「蜜が溢れてきたな……」


 珀明の言葉に、恥ずかしさで顔が熱くなる。
 恥じらう奏の唇に、珀明が啄むようなキスを落とす。


「あぁっ……! もう…駄目…んぅ……」


 珀明の指先は、執拗に奏の感じるポイントを穿った。
 指の動きが早くなる。
 甘い声が、引っ切りなしに零れる。


「あっあっあっ……ああぁ!」


 ビクンッと身体が跳ね、目の前が一瞬真っ白になった。


「瑪瑙……」


 珀明に名前を呼ばれ、焦点の合わない瞳で珀明を捉える。
 指が引き抜かれ、代わりに珀明の熱く硬い屹立が宛がわれる。


「んっ、ああぁあっ!」


 入口を太い部分で広げられ、珀明が奏の細い腰を掴み、楔が奥まで押し入ってくる。
 全てをおさめると、珀明はズンッと膣内を穿った。


「あぁっ!!」


 奏は小さな悲鳴を漏らし、身体をのけ反らせる。
 珀明は奏を抱き締めるように背中に腕を回した。


「あっ、あんっ……珀明さ、んんっ!」


 奥を突かれる度に、じわじわと快感の波が押し寄せてくる。
 膣内が珀明で満たされる。
 ナカでドクドクと脈打つそれは、入れた時よりも硬く重を増していた。
 珀明も感じてくれいることが嬉しくて、奏の膣内がキュウッ…と締まる。


「っ……!」


 膣内の締め付けに珀明は息をつめる。


「やぁぁっ……!」


 ズルリと入口付近まで楔を抜かれ、すぐにまた奥まで埋め込まれる。
 最奥を穿たれ、角度を変えて内壁を擦られる。
 珀明の動きに合わせて、知らず奏の腰が揺れる。


「……厭らしいな」


 楽しそうに、低い声で珀明が耳元で囁く。
 奏の顔がカッと赤くなった。


「厭らしい私は、嫌いですか……?」


 快楽から溢れる出る涙で瞳を揺らしながら、奏は珀明の顔を見つめる。
 奏の言葉に珀明の雄が更に重を増し、膣内をジュプジュプと大きな水音を響かせながら激しく突いていく。


「あんっああっ…やぁ! 激し……」


 奏は車内でブラウスを開けられ、スカートを腰まで捲り上げられている。
 珀明はパンツのベルトとファスナーを寛げているだけで、他の衣服は乱れていない。
 珀明の突き上げるスピードが速くなり、奏はただ置いていかれないように快感を追った。

 愛液なのか珀明の先走りなのか、蜜壷からは際限なく蜜が溢れ抽挿の度にグチュグチュと卑猥な音を響かせた。


「あっ…ああ、ぁぁ……!」


 膣内をいっぱいに満たしていた珀明の男根が、奏の最奥で弾けた。
 ドクドクと放たれた熱い精液が膣内を濡らしていく。


「ん……」


 珀明が身体を起こし、ズルリと楔を膣内から抜いた。
 ゴムに覆われていないそれは、自身の放った精液と奏の愛液でぐっしょりと濡れて光っていた。


「あ……」


 その姿が卑猥で、奏は恥ずかしさから顔を逸らした。


「今更、だろう?」


 意地悪く囁かれ、顎を指で固定され振り向かされる。


「意地悪……」

 
 視線が交わり、どちらかともなく口づけを交わす。


「ん、ん……」


 キスをしながら、珀明が蜜で濡れている膣内に指を潜り込ませる。


「あっ!? ……んっん!」


 ナカで指が動き、奏は珀明の目的を知る。


「やぁっ! もうもたな……あぁんっ!!」


 二度も絶頂を迎えた身体は敏感で、ゆるゆると膣内で蠢く指を締め付けてしまう。


「まだ大丈夫のようだな?」


 再び蕾に硬くなった亀頭を潜り込ませながら、奏の耳朶を舐める。


「あっ…あっ、あぁんっ……!」


 奏は珀明に組み敷かれ、屋敷に着くまで喘がされ続けた……



***



 奏はベッドに俯せに寝転がり、ベッドの端に座る珀明に向かって不満を口にしていた。


「喉が痛いです」

「あぁ……」

「腰も痛いです」

「そうか……」


 奏の苦情を、珀明は淡々と受け流していく。
 しかし、内心では奏の機嫌が直らないかと考えを巡らせていた。


「……赤ちゃんペンギン可愛かったですね」

「……そうだな」


 珀明は親ペンギンの足元にいたふわふわした小さなペンギンを思い出す。


「また行きたいです」

「ああ」


 奏が気に入ったのなら、連れて行った甲斐があるというものだ。


「いつか……、今度は三人で行きましょう」

「そうだな。……ん?」


(三人?)


 葉月かレイヴンと一緒にということだろうか。
 しかし、奏の顔が次第に赤くなっていくのを見て珀明は意味を悟った。


「あぁ。そうだな」


 気付かず、柔らかな声で返事をしていた。


「ふふ。楽しみですね……」


 奏は今まで怒っていたのが嘘のように花が綻ぶかのように笑った。
 そして一日の疲れが出たのか、暫くして奏は眠りに落ちていった。


 珀明は奏の中に自分と子どものいる未来のビジョンがあることに驚いていた。
 未だに何故奏が自分に心を開いてくれたのかも、好きになってくれた理由すら思いつかない。


「本当にわからない娘だ」


 そう呟きながらも、奏を見つめる眼差しは誰も見たことがない程に優しい。
 きっと珀明本人も気付いてはいないだろう。


 規則正しい寝息を立てる奏の頬に、珀明は愛おしむように口づけを落とした―――



*『水族館』END*



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