『水族館』後日談
「何ですか? これは」
目を覚ますと、ベッドの回りがペンギンのグッズだらけだった。
ベッドの直ぐ横には100cmはゆうに越えているであろう、頭に王冠を被った大きなペンギンのぬいぐるみ。
枕の傍には、お腹を押すと『プゥッ』と音のする赤ちゃんペンギンのぬいぐるみ。
他にも大小様々なぬいぐるみに、ネックレス等のアクセサリーに写真集やポストカード、スノードームや硝子の置物まである。
(……とても可愛いんですが、これは一体?)
「お目覚めですか? 奏様」
視線を向けると、ソファに座る珀明にティーカップを差し出している葉月の姿があった。
「よく眠っておられましたね、軽食にサンドイッチをご用意致しております。お召し上がりになりますか?」
テーブルには、サンドイッチやスコーンが綺麗に盛られたプレートがあった。
「有難うございます。頂きます」
珀明の隣に座り、葉月の入れてくれたお茶を一口飲む。
一口飲めば、スゥーっと身体から力が抜けていく気がした。
今日はカモミールティーだ。
「珀明さん、あのグッズはどうなさったのですか?」
ジッと、奏は珀明を見つめる。
「気に入らなければ捨てればいい」
「捨てればいいって、珀明さん!」
言いたいことがあるならきちんと話して下さい。
そう言い重ねると、奏と珀明のやり取りを見ていた葉月が口を開いた。
「あまり怒らないで差し上げてください。水族館の土産のパンフレットを頂いたのですが、奏様の好みが分からず、珀明様は女性が好みそうなものを全て送るよう御指示なさったのです」
あんな珀明様は初めて見ました。と、葉月が笑う。
「珀明さんが?」
葉月の言葉に胸が熱くなる。
(珀明さんが……、私の為に?)
奏は隣に座る珀明の顔を見上げると、さっきよりも眉間の皺が深くなっている。
「葉月」
珀明は睨むように葉月を見つめた。
(もしかして、私が眠る前に怒っていたから、沢山の贈り物を下さったのですか?)
「珀明さん。私は、珀明さんが私の為に選んで下さったものなら、どんなものでも構わないんですよ」
仲直りをするのに、そもそも贈物なんて必要ないんです。
奏は珀明に笑いかけながら、珀明の手に自分の手を重ねた。
(いつか、気付いて下さいね……)
「私の為に選んで下さって、有難うございます」
珀明は黙ったまま、重ねた奏の手を大きな手で包み込むように優しく握り締めた。
じわじわと、奏に珀明の体温が伝わってくる。
その手の温もりは、普段より温かく感じた―――
*『水族館』後日談END*
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