「闇の宴」



 その夜、ある料亭の一室で三人の男達が酒を酌み交わしていた。
 三人は共に倉橋姓で、分家に当たる者達だ。


「もう当主がご結婚されて一年が経つと云うのに……」

「ええ、まだご懐妊の兆しはないとか……」

「突然十六歳の小娘を娶られた時は驚きましたが。これは好機やもしれませんな、流様」


 男は先程から上座に無言で座っている四十代の男・流に話を振り、手に持っていた徳利を傾け流のお猪口に注いだ。 
 流は珀明の父方の従兄弟に当たる。この中では一番本家に近い血筋だ。

 流は注がれた酒を一気に煽った。
 そして卓上にお猪口を置き、静かに言った。


「あぁ、我等にもまだ望みは残されている。私は光明の様な愚かな真似はせん」


 当主の座を諦めきれなかった愚かな男。
 一族を追放され、栄転と言う名目のもと国外に飛ばされ、二度と日本の地を踏めなくなった。


(もっと賢い男だと思っていたが……。自分が当主にならずとも、影から操ればいいものを。当主に娘を愛人として宛がえばいい)



 当主は必ず、子を成さなければならないのだから――



*『闇の宴』END*



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