『男は顔じゃない』
あれから一年。
最初は部活に行くのが憂鬱で、ファントムのことが怖くて仕方が無かった。
部員は優実一人だけだから、部活に遅れる場合のことを考慮して、メールアドレスの交換をした。
だからサボることも出来ない。
何だか、見えない鎖に繋がれている気分だった。
でも、ファントムとの部活はいい意味で驚きの連続だった。
実験を通して、知らない世界を見ることが出来たから。
夏には夜に天体観測をしたり、アルミ缶を使ってアイスを作ったり。
冬には液体窒素で薔薇を凍らせたり、静電気を起こしてゲームをしたり。
富裕層の子どもが集う学園では、やらないことばかり。
ファントムと過ごしているうちに恐怖心は無くなり、彼の優しさを知った。
そして気付けば、ファントムに恋心を抱いていた。
***
「相楽さん、後片付けをして終わりにしましょうか」
「は、はいっ!」
ファントムの声で、ハッと現実に引き戻される。
完全に思い出に浸っていた。
ファントムに指示されるがまま、道具の片付けをする。
この一年で、彼のことを知る機会は全くなかった。
飲み物を飲む時に口の部分がスライドするくらいだろうか。
ファントムは、生徒から「ファントム先生」と呼ばれている。
ファントムの受け持つクラスの化学の成績は、平均点が九十点以上。
恐怖心から下手な成績を取れないと、皆必死に勉強するからだ。
本当は、教え方が上手いから復習しやすいのだが、気付いている生徒は少ないだろう。
そう言えば、学内新聞で今月もファントムが取り上げられていた。
一面トップは『理事長、またも十八歳未満に間違われ補導される!?』
インタビュー内容は『気になる教師ランキング!!』
どの教師にとっても失礼な記事だが、恋人にしたくない教師ワースト五にファントムの名前が入っていた。
因みにファントムは二位で、恋人にしたい教師ナンバーワンは理事長(童顔・中等部に孫あり)だった。
理由としては『仮面を着けている時点で話にならない』『仮面が怖い』などが挙げられている。
確かに仮面は怖い。
それに、部員の優実ですらファントムの素顔を見たことが無い。
一年生の頃に一度だけ、素顔を見せて欲しいと頼んだことがある。
けれど―――
『後悔することになっても構わないのなら、いいが?』
しばしの沈黙の後にそう言われ、そのあまりの怖さに慌てて否定した。
あれ以来聞いていない。
当時はファントムのことを意識していなかったから、そう答えたけど今ならきっと、どんな顔でも受け入れられる。
(私が好きなのは、先生の性格だから……)
そう、男は顔じゃない。
「先生! 大丈夫、男は顔じゃないから!」
優実はビーカーを洗っているファントムに力説した。
新聞部の記事は、高等部の女子生徒二百人のアンケートから集計された結果であり、むしろ優実の方が小数なのだが。
「え? 何ですか急に……」
「男は性格と年収だからね!」
突然の言葉にファントムは意味が分からずに驚いていたが、一人突っ走っていた優実には届かなかった。
*END*
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