『高等部 聖徒会』
翌朝……、と言っても今日。
冴は徹夜で書き上げた感想文を片手に、罰ゲームをかした友人達のもとへと向かった。
“高等部 聖徒会室”
「マジ? 本当に借りて読んだのかよ。昨日の今日で?」
―――聖徒会副会長、三年・渡里聖(わたり ひじり)
「ちょっと聖! それ疑う余地あるけど言い過ぎろ! ねぇ、夏目先輩(なつめ)?」
―――聖徒会書記、一年・雨宮麗(あまみや れい)
「真実だとすれば、冴の新たな一面が垣間見えたということだ」
―――聖徒会会計、三年・夏目充(なつめ みつ)
応接用のソファーに座り、紅茶を飲みながら三人は言いたい放題。
「いや、アンタ達全員失礼だから!」
(人のこと何だと思ってんのよ!)
ジロリと賭けの主犯である聖を睨むが、聖は気にする様子すらない。
「だって聖徒会長の癖に書類仕事も全くしないし、読書嫌いのお前が読書!? 疑う余地ありまくりだろ。気でもふれたんじゃねーの?」
自慢ではないが、自分が生徒会長と言う柄ではないことは一番理解している。
そもそも、前会長リコールさせて後釜に冴を推したのは聖で、自分が望んで就いたわけではない。
「おまけに冴先輩って、初図書館なんだよね? あれ? けど、よく冴先輩本を見つけられたよね」
麗の疑問に「そう言えば…」と、聖が不思議そうな顔で冴を見る。
(いや、私だって本ぐらい一人で探せるから。まぁ、探せてないわけなんだけどさ)
「聖、麗、それは余りにも失礼であろう。館には『蔵書検索システム』がある。故に冴も保管場所まで迷うことはなかろう」
(蔵書…、検索システム……って、何?)
顔に出ていたのか、聖と麗は驚いてポカンとした顔で冴を見つめ、充は「やはりそうか」と呟いた。
「吾らが幼稚舎の時代以前からシステムは導入されていたのだが。これで幼き頃から冴が図書館に行っていないことが判明したことになるな」
ふむ。と納得したように充が頷く。
「ちょっとソコ。冷静に酷い分析しないでよ」
「『蔵書検索システム』とは、館にあるパソコンで本のタイトル等を入力すると、本の所在地が表示されるというものだ」
深い溜め息をついた後に充が仕方がないなと渋々ながら説明してくれる。
「そんなのがあったんだ。……全然知らなかった。ってゆーか、そんな便利な物があるならもっと早く教えなさいよね、充!」
「冴が横着してレポートの本を自分で借りに行かないからであろう。それに、使い方は高等部の図書館案内でも説明していたぞ」
「はいはい、まーまーその辺で。で? お前、どうやって辿り着いたわけ? 手っ取り早く学校司書に聞いたのか?」
冴と充のやり取りをマフィンを食べながら眺めていた聖が会話に加わってくる。
「あー、それなんだけどさ、派手な司書の人が声かけてくれてね。メモ見せたら、メモとあたしを交互に見てきてさー。なんか失礼な人だったんだよね」
冴は図書館であったことを話した。
話しが進むごとに聖と麗はまたツボを突いたのか笑い出した。
「そりゃ交互にも見るだろ。どう見ても、お前がその本読むよーなキャラじゃねぇし」
(悪かったわね。あたしの愛読書は漫画本だけよ)
「あぁ、確かに。私もそれ会長が読むと思わなかった。多分その司書も本の内容知ってて、そんな態度取ったんじゃないかなーと思うよ」
(あー、だからあの顔か。納得。………って)
「あいつ司書の癖に失礼じゃん!」
(こっちは利用者だっつの!)
確かに、普段全く漫画以外の本を読まない。
昨日借りた本も、罰ゲームのことがなければ一生読まないだろうと思う。
だが、それを他人に指摘されると腹が立つのはどうしてだろう。
「だがその本は、人の中にある目を逸らしたくなるような事象に気付かせてくれる」
充が淡々と囁く。
「ん? というか、皆読んだんだ? そんな有名な作家なの?」
「作者、刹那。童話やファンタジーを専門にする作家。『魔物姫』は来期に映画化が決まっている。吾らは出版前に麗に本を貰っていたからな」
(映画化かー。あの物語なら映画化も納得)
「発売前って、何で? 麗って刹那って人の知り合いなの?」
(発売前には普通は買えないから、作家や出版社から流して貰ったってことだよね?)
「知り合いってゆーか、あの本のイラスト手掛けたの私だし」
何でもないことのように、麗が言った。
(イラスト手掛けたって……)
「どこの漫画な展開だ!」
「いや……、冴先輩。うちのクラスには漫画な人達がごろごろ居るから……」
(あぁ、麗ってエリート集団SP組だっけ……。学年違うし、自分が普通クラスだと回りも同じだと思っちゃうんだよね)
普通クラスが各学年十七クラスに対して、SP組は二クラスだし。
「で、お前に渡さなかったのは、本を読まないだろうと思ってな。俺が差し止めて、代わりに学園に寄贈しといた」
感謝しろよと言わんばかりに、得意気に胸を張る聖。
(だから何でアンタが得意げに言うの。で、私は自分に渡る筈だった本を借りたわけね。うっわー、凄い複雑な気分……)
「もーいいや。とにかく、感想文出したからね! ほら、そろそろホームルームが始まるから出て! 学校に来てても、教室に居なきゃ遅刻なんだから!」
冴の言葉に、充と麗が食器の後片付けを始めた。
(放課後になったら図書館に行って本を返却しなきゃ。んで、あの司書に一言文句言ってやる!)
「高等部 聖徒会」終
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