『室長の謎』
※二人が付き合う前のお話
秘書室には、お茶の時間がある。
お茶の時間と言っても、きちんとした休憩時間ではなく仕事をしながらお茶を飲んでリラックスするというもの。
秘書室の皆はこのリラックスタイムが楽しみだった。
「はい、どうぞ如月さん。今日はアールグレイです」
そう言って凌のマグカップを手渡してくれるのは、室長であるレイヴン。
毎日、部下の為にレイヴン自らがお茶を淹れてくれるのだ。
「有難うございます。室長」
お礼を言ってカップを受け取ると、紅茶からベルガモットの優しい香りがした。
息を吹きかけて一口飲めば、ホッと肩の力が抜けたような気がする。
「美味しい……」
(何て言うか……、すごく落ち着く味……)
秘書という職業柄、皆お茶の淹れ方をそれなりに知っているが、レイヴンの淹れたモノは別格だ。
珈琲をはじめ、日本茶や紅茶も、どれをとってもレイヴンの足下にも及ばない。
しかも、社長に至ってはレイヴン以外の者が淹れた飲み物は一切口にしない。
凌も以前レイヴンに紅茶の淹れ方をどこで習ったのかと訊ねたことがあったが、何か嫌な思い出があるのか顔をしかめられ質問に答えて貰えなかった。
レイヴンよりも先輩の秘書に訊ねると、レイヴンは入社当時から既に今の腕前で、当時同じ質問をした時に「幼い頃から躾られている」と答えたらしい。
(幼い頃から飲み物の淹れ方の躾……、室長の家って一体?)
こうして謎は深まった。
*END*
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