『甘い風邪』



「うぅ〜〜、コホッコホンッ」


 蓮は朝からベッドの上で唸っていた。

 時刻は午前十時。


(今日は二ヶ月ぶりの信とのデートの筈だったのに、こんな日に風邪ひくなんて有り得ない……)


 溜息をつきながら耳にあてた体温計を見ると、三十八度五分。


(最近仕事忙しかったから、疲れが出たのかもかも)


「ゴホッ……信さんに断りの連絡したし、もう寝よ」


 もぞもぞと布団に包まり、目を閉じた。


「ん……」


 どのくらい眠っていたのか、おでこにひやりと冷たいものを乗せられた気がして、蓮は目を覚ました。


(誰……?)


 閑静な高級住宅街の一角に、蓮の住むマンションはある。
 その最上階で、日本に来てから独り暮らしをしているのだ。
 週一回に来る掃除業者と秘書、そして友人である花白しか部屋に入れたことはなかった。

 蓮が上半身を起こすと、ポトリと額からぬるくなったタオルが、かけ布団の上に落ちた。


(一体誰が……。秘書でも来たのかな?)


 サイドボードの時計を見ると、正午過ぎ。
 二時間程眠っていたようだ。
 
 するとノックがして寝室のドアが開かれる。
 現れた人物を見て蓮は目を見張った。


「し、信さん!?」


 目の前に現れたのは、一人用の土鍋と水差し、グラスの乗ったトレイを持った信だったのだ。


「なっなんで居る……ゴホッゴホ……」

「うん? 風邪だって聞いて居てもたってもいられなくてね。お見舞いに来たんだよ」


 信はサイドボードにトレーを置き、ベッドサイドに屈んで、蓮の顔色を確かめた。


(……心配して来てくれたんだ)


 信の気遣いに、心が温かくなっていく。


「住所は知っていたし、鍵は管理人さんに事情を話たら開けてくれてね」

「うん。有難う……」


 二ヶ月ぶりに会えたのが嬉しくて、蓮は信に抱き着いた。
 信も、ぎゅっと抱き締め返してくれる。


「お粥を作ったんだけど、食欲はあるかい?」

「うん」


 信はトレイに乗った一人用の土鍋に入っているお粥をレンゲで掬い、蓮の口へ運んでくれる。


「や、自分でできるから」

「いいから」


 作ってもらった上に、食べさせて貰うのが申し訳なくて、蓮は断ろうとするけれど、信は引いてくれなかった。
 恥ずかしさに耐えながら、パクり…と一口頬張ると、お粥とザーサイの味が口に広がる。


「ん……。美味しい」


(信さんて、病人食も上手なんだ……)


「それは良かった」


 嬉しそうに信は笑い、レンゲで掬ったものをまた口に運ぶ。


(何だか雛鳥になったみたい。誰かに食べさせて貰うなんて初めて)


 あらかた食べ終わり、薬をお水で飲んで一息つく。


「ほら、もう一眠りして」


 信は蓮をベッドに横たえると、掛け布団をかけて眠るよう促した。


「ん、ね……お休みのキスして?」


 熱があるせいか、日頃なら絶対に言わないような甘えも、躊躇いなく口にできる。


「いいよ」


 頷を固定され、信が唇を重ねる。


「はぁ……ん」


 舌が入り込み、舌先を座れてじんわりと快感が走る。
 二ヶ月ぶりのキスに夢中になる前に、唇が離された。


「や……、もっとして」


 甘えた声で言うと、信は困ったように眉を寄せた。


「これ以上キスしたら、歯止めが効かなくなりそうだからね。もうお休み」


 頭を撫でなれながら、信が言う。


(信さんも、私に触れたいって思ってくれてる? キスじゃ足りないって……。なら……)


「いいから。……して」

「蓮、熱があるんだよ」

「大丈夫だから、ね?」


 蓮の拙い誘いに、ぐらりと信の気持ちが揺らぐ。
 一度離れたはずの信の腕は掛け布団をめくり、蓮の薄い背中へと回した。
 そして、その身体を抱き締める。

 今は蓮を休ませてやる方が大切だと頭ではわかっているのだが、本能は蓮の身体が欲しいと言ってきかなかった。


「途中で棄権は認めないよ?」

「うん。でも、シャワー浴びたい」

「後でね」

「でも……」

「どうせ浴びても汗まみれになるからね」


 尚も抗議しようとする蓮の唇をキスで塞ぎ、信はパジャマのボタンをはずして下着ごとズボンを脱がした。
 太腿の内側に指を這わせると、蓮はしどけなく自分から足を開いた。

 指を唾液で湿らせ、ピンク色をした愛芽を指で撫でてからゆっくりと一本だけ蕾に沈めていく。


「あ…ん……」


 熱があるからか抵抗感はなく、蕾はすんなりと指を受け入れた。
 指を中で動かしながら、舌先で胸の頂を転がす。
 舌で押し潰すような刺激を与えれば、次第に硬くツン…と尖っていった。


「あんっ……は……」


 蓮は切なげに息を吐く。
 指を二本に増やし何度も奥を突き、蕾を溶かしていく。


「あぁっ……、あっ…もう……」


 蓮はビクビクと腰を震わせ、泣きそうな声を出すが、構うことなく蓮の弱い所を愛撫していく。


「いや……、もう…やぁ」


 快楽に歪む顔は官能的で、蓮の甘い声と媚態で信も煽られる。
 指を引き抜いて蓮の身体を折り、足を抱え上げ、ゴムをつけた自身を蕾に宛がう。
 信はゆっくりと身体を繋げていく。


「あっあっ……っ、あんっ……」


 愛撫に溶けた蕾は、柔軟に信を呑み込んでいった。
 熱く溶けてしまいそうな粘膜に絡まれ最後まで入ると、信は耐えかねたように蓮の顔の両側に手をついて突き上げ始めた。


「んっんっ……、あっ……ぅ」


 突き上げる度に官能に染まる蓮の顔を堪能する。
 浅く突き上げながら身体ごと揺さぶられ、蓮は悶えた。
 狭い内部は信に絡みつき、溶けるような快感を信に与えてくれる。


「だ……め、…もぅ……」


 蓮の吐く息は熱くて甘く、信はキスで蓮の唇を塞いだ。


「ん、あ、ぁふ……」


 舌を絡め、何度も角度を変えながら、ナカを穿つ。


「ふっ……んん」


 唾液が混ざりあうのも構わず互いに貪り合い、やがて信は名残惜し気に唇を離した。


「大丈夫かい?」

「……うん」


 頷く蓮の腰を掴み、信は腰を押し付けるように深く突き上げる。
 蓮は泣きそうな声で喘ぎ、信の広い背中に縋るように腕を回した。


「いい……、んんっ……あぁんっ」


 のけ反りながら気持ちよさそうに喘ぐ蓮に、信の心が満たされていく。


「……蓮」


 蓮の耳に唇を寄せ、愛しい恋人の名を呼ぶ。


「んっ……」


 声だけでも感じるのか、蓮が身体を震わせる。
 風邪を引いている蓮に無理をさせまいと思っていた信だが、気付けば欲望に支配されて、蓮の中を激しく穿っていた。
 穿つリズムを速め、激しく突き上げる。


「あん、あ、あぁぁっ!!」


 悲鳴のように甲高い声を上げて、蓮が達する。


「……ふっ」


 ナカが絞まり、蓮に促されるように信も絶頂を迎え、ドクッ…とゴムごしに精をほとば散らせた。

 ズルリ…と信の背中に回していた蓮の腕がシーツの上に落ちる。
 気を失った蓮の前髪を掻き分けながら、愛おしそうにおでこに口づけた。


「愛してるよ、蓮……」


 信は眠る蓮を抱き締めながら囁いた。


――――
――


 ピピッと耳元で電子音がして、信が体温計を蓮の耳から外す。


「三十九度六分、か。また上がったね」

「うぅ〜〜」


 シーツを新しく替えたベッドの中で、蓮は体温を聞いて呻いた。


(頭痛い。身体重い9


「う〜、汗かいたら熱下がるんじゃないのコホッ」

「どちらかと言うと、激しい運動に近いからね」


 氷嚢を額に乗せながら、信は苦笑する。


「ケホッ……信さんのせいでもあるんだよ」


 ぶすっと顔を背けると、信は更に笑う。


「そうだね。じゃぁ、今日は夜通し看病しないといけないね」


(――え? それって……)


「泊まってくれるの!?」

「今日は土曜日だからね。月曜日は振替休日だから、後二日一緒にいられるよ」


 にっこりと笑いながら、信が言う。


(どうしよう。凄く嬉しい……)


「さて、その為には早く治さないといけないね」


 信は蓮の頬を手で撫でながら「一度お休み」と囁いた。


「はい!」


 蓮は笑って頷くと、瞳を閉じる。
 目を閉じればすぐに眠気が押し寄せ、意識が沈んでいく。
 信は規則正しい寝息を立てる蓮を優しい眼差しで見つめながら、柔らかく笑う。
 そして次に目を覚ました時の蓮の為に食事の準備をすべく、寝室を後にしたのだった。



*END*

ペピイッ子様に捧げます。
キリリク有難うございました。



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