『happy? Christmas』(『日々是好日』クリスマス企画)



 ――十二月二十四日


「リンリンリーン リンリンリーン すっずっが〜なる〜」

 暖房の利いたリビングで、セロはクリスマスソングを口ずさみながらツリーの飾り付けをしていた。
 ツリーは午前中にホームセンターで購入して来た物だ。淡いブルーのツリーに合わせて、雑貨屋で数種類のオーナメントも購入して来た。

(リク喜んでくれるかな……)

 帰宅したリクがツリーを見た時の反応を想像し、セロはクスリと口元に笑みを浮かべた。リクと初めて過ごすクリスマス。
 テーブルの上にはチキンやポテトサラダ、パイシチュー等のクリスマス料理が並んでいる。この日の為に、リクに内緒でセロが予約して準備していたものだ。勿論、冷蔵庫にはクリスマスケーキとシャンパンが入っている。
 本来なら大学が冬休みに入っているセロが料理の腕をふるうところなのだが、未だにリクからの料理禁止令が解かれていない為全てデパ地下グルメとなっている。

「でも美味しいって評判のお店のだし、大丈夫よね。あとは銀色の星をてっぺんに乗せてっと……、完成ー」

 パチパチと手を叩き、完成したばかりのツリーを満足気に眺めた。
 クリア色と蛍光色のパープルのオーナメントで飾りつけられたツリーは、実家にある賑やかな色合いのツリーとは違い、落ち着いた大人の雰囲気を醸し出している。
 ツリーとオーナメントの入っていた段ボールや箱を片付け、キッチンで料理を温めていると、玄関の方から小さな音が聞こえてくる。リクが帰宅したようだ。
 程なくしてリビングにやって来たリクに駆け寄り、セロは習慣となっているお帰りなさいのキスを贈った。
 まるで新婚夫婦のような甘い習慣に、最初は戸惑っていたセロだったが、誰かに見られるわけではないのだからと自分に言い聞かせ、毎日欠かすことなくバードキスを贈っている。

「お帰りなさい、リク」

「ただいま、セロ。セロに早く会いたくて仕方なかったヨ。今日もイイ子にしてタ? 昼に夕食の食材は買って来なくていいだなんてメール来るから心配したんだヨ? ボクに黙って料理してるんじゃないかって。怪我してないかって帰って来るまで気が気じゃなかったんだからネ」

 キスの後にその存在を確かめるかのようにセロを抱き締めるのは、リクのいつもの癖。付き合う以前も会えば必ずその腕に一度は抱き締められ、別れる時はまるで今生の別れのように強く抱き締められた。そして必ず、額に優しいキスをくれる。

「今日はクリスマスだから、デパートにお買い物に行っていたの。デパ地下で売ってたお料理とケーキを買って来たから、私はそれを温めてお皿に盛っただけよ? ツリーも買っちゃった。綺麗でしょう? ね、シャンパンもあるから、二人でクリスマスのお祝いしよ?」

 綺麗に料理が並べられたテーブルと窓辺に置かれたツリーを抱き締められたまま指差すと、リクはふーん…と鼻を鳴らした。
 背中に回っていた腕が外され、明らかに機嫌の悪くなったリクに顎を持ち上げられる。不機嫌を露にしたリクの顔に、セロはビクリと身体を震わせた。

「リ…ク……?」

(どうして急に怖い顔をするの?)

 何か気付かぬ内に、リクを怒らせてしまったのだろうか。勝手に料理を買って来たことに怒っているのだろうか、それとも黙ってクリスマスツリーを買ったことを怒っているのだろうか。

「ねぇセロ。クリスマスって何の日か知ッテル? 今日はイヴだけど、ネ……」

(……クリスマス?)

「キ、キリスト様のお誕生日でしょう?」

 十二月二十五日のクリスマスとは、イエス・キリストの誕生を祝うキリスト教の記念日のことだ。
 日本では前日のクリスマスイヴが賑やかになるが、キリスト教圏では反対に翌日のクリスマスが賑やかになり、祝日であるその日は主に家族と共に過ごすという風習がある。

「ソウ。それを知ってて、セロはボク以外の男の誕生日を祝うんダ?」

「他の男って……、でも日本ではクリスマスはただのイベント扱いでしょう? 子どもにとったら、サンタさんからのプレゼントが貰えて、クリスマスケーキが食べられる日でしょう? 大人だって似たような感覚しかないわよ」

 敬虔なクリスチャンや仏教徒でもない限り、日本ではクリスマスをキリストの誕生日だと意識する人は少ない。セロも例に漏れず、仏教徒でありながらハロウィンやクリスマス等のイベント事を楽しむ傾向にある。

「ふぅん……。セロは知らない男からプレゼントを貰って喜ぶんダ? 子どもの欲しいプレゼントを無償で配る怪しい男なんかに……」

 何故そんな曲解しか出来ないのか。いくら言葉を重ねても、リクに届かない。

「知らない男って……、プレゼントを用意してくれているのは子どもの親や親しい人たちなのよ? ねぇ、リク……」

 吸い込まれそうな程黒いリクの瞳に、セロの顔が映る。

「これだからセロは目が離せないんダ。きっと何処の誰だかも分からない男に連れ去られてしまう……。もう充分だよ、セロ」

 眉間に皺を刻んだまま、リクは顎を掴んでいた手をセロの膝裏に回し、その華奢な身体を持ち上げた。

「は? えぇっ!? リク、ちょっ、落ち着いてって―――きゃっ!!」

 リクはお姫様抱っこをしたまま、危なげのない足取りでツリーの側に置かれた赤いソファーまで歩き、そこにセロの身体を下ろした。

「んっ……!」

 セロの白い首筋に顔を埋め、その薄い皮膚を舌先で撫でてくる。時折濡れた音を立てて唇が皮膚に吸い付き、赤い花びらを散らす。
 皮膚を愛撫され、ぞくりと肌が泡立ちそうになったが、セロはかぶりを振って耐えた。

「んっ……、駄目。ご飯、折角温めたのに冷めちゃう」

 流されるまいと言った瞬間、スカートの裾から入って来た手に下着越しに秘部を愛撫され、セロは息を詰まらせた。

「…………っ」

 首への愛撫だけで火照っていた身体が一気に熱くなる気配を感じ、身体が震える。

「駄目はボクの台詞だヨ? セロ。クリスマスなんかに心を捕らわれたセロが悪い。セロの心を占めるのはボクだけでいい。ボクでセロを一杯にしてあげるネ?」

 オフホワイトのセーターを脱がされ、鎖骨に口付けられる。そこにも赤い花びらが散らされ、セロの唇からは堪えきれない甘い吐息が零れた。
 ブラのフロントホックが外され、知らない内に固く凝っていた桜色の飾りを指の腹で撫でられる。

「ひゃっ……ぁっ!」

「可愛いネ。もっと可愛い声を聞かせて?」 

「や、ぁ……意地悪しないで」

「セロは意地悪されるの好きでショ? だってホラ……濡れてるヨ? セロの大切な場所が……」

 耳元で意地悪く囁かれ、セロは低い声と吹きかけられた吐息に背筋を震わせた。
 ショーツの中に忍び込んで来た手が、身体の中心に触れてくる。まだ小さな真珠に親指の腹が触れ、中指が慎ましく閉じた蕾の中へと侵入していく。
 そこはリクの言葉通り、蕾から溢れ出る愛液で濡れていた。

「ひっ……、んっ……ぁっ! ゃんっ!」

 白い乳房の飾りに吸い付かれ、舌先で突起を捏ねられる。もう片方も指で突起を摘ままれ、突起を中心に大きな掌で弾力を確かめるようにゆっくりと乳房を揉みしだかれた。そうされている内に、身体の奥がジン…と痺れてくる。

「イヤラシイね。胸をイジられるのが好きナノ? どんどんイヤラシイ液が溢れてくるよ……。もう、このショーツは使い物にならないネ?」

「好きじゃな―――きゃんっ!」

 セロが恨めし気に涙を滲ませた目で睨みつけると、リクは乳房から顔を上げて笑みを浮かべた。

「好きじゃナイのにこんなふうになっちゃうノ? オカシイな。じゃぁどうしてセロの大切なココは、こんなにも悦んでいるのカナ?」

 愛液にまみれたリクの二本の指が、蕾の中で動きグチュグチュと卑猥な水音を立てる。戯れに感じやすいところを擦られ、熱を煽るような刺激にむず痒さが広がっていく。

「んぅっ! あっ、あんっ、ぅんっ……ゃあぁっ!」

 セロはソファーの上で身をのけ反らせ、甘い嬌声を上げた。
 快楽から逃れようと腰を捩らせるセロの蕾を弄りながら、リクは唇を重ねて来た。
 舌先で唇の輪郭をなぞられ、啄むだけの口付けが繰返される。やがて唇を割って、リクの舌が口腔内に侵入してくる。

「ふ…ぁ……」

 リクの舌が口腔内を荒々しく蠢く。息が上手く出来ず、息苦しさから顔を背けようとするが、顎を固定されそれは叶わない。

「セロ……」

「んっ、ふ、んんっ!」

 顔の角度を変え、舌を絡められキツく吸われる。嚥下しきれない唾液が、唇の端から零れ顎を伝って行く。まるで想いをぶつけるような荒々しい口付けなのに、口付けの合間に囁かれる声音はとても優しい。
 リクが自分を欲してくれていることが分かり、理不尽な言葉や意地悪な愛撫も愛しく感じる。
 やがてリクが濡れそぼった蕾から指を抜き、愛液を吸ってその役目を果たしていないショーツが脱がされた。

 リクはスーツの上着を脱いでネクタイを取り、シャツのボタンを三つ程外した。
 スラックスの後ろのポケットに入れていた財布の中からスキンを取り出し、セロに見せつけるように歯で袋を破って自身に被せる。
 セロのスカート腰近くまで捲り上げ、リクはセロの細い腰を掴んだ。
 これから大切な場所へと迎え入れる熱への恐怖と、愛する人と身体を繋げることへの甘い期待で胸の中が一杯になる。セロは少しでも楽に受け入れられるよう大きく深呼吸を繰り返した。
 膝の裏に腕を回され、膝が大きく開かれる。呼吸のタイミングを見計らって、蕾に宛がわれた熱い楔が打ち込まれた。

「あ……、あぁ―――!」

 一気に根元まで打ち込まれ、セロはその圧迫感に息が詰まりそうになる。
 何度となく受け入れてきた熱なのに、亀頭で入り口を押し広げられるこの瞬間の圧迫感と僅かな痛みは変わらない。

「は、あっ、あぁっ」

 熱い楔が子宮口を目掛け、グイグイと抜き差しが繰り返される。リクが腰を打ち付ける度に、グチュグチュと濡れた音が接合部から零れる。

「ひゃっ、あっ、あっ、はっ……んん―――!」

 感じやすい内襞を抉られ、甘い痺れが身体中を駆け巡る。

「あぁっ……、リクぅ…もっと、突いて……。ふっぁ……、そこ…気持ちいい」

 もっと強い刺激が欲しくて、セロは誘うように腰を揺らめかせた。
 頬を上気させ、快楽に溺れた瞳でリクを見つめた。

「そんなにイイの? ココ……」

「ひゃっ、あっ、あんっ! 駄目ぇ、そこ……ぁっ、いぃのぉ……」

「ねぇセロ。ココはダメなの? それともイイの?」

「ひっ、んんっ……あぁんっ! いいのぉ……あっ、ふぇっ…駄目、強く擦っちゃ、ん、はんっ…いっちゃ……」

「イッちゃいそうなんだ? セロ……」

 猛った楔に敏感な内襞を擦られ、そこから狂うような快感が生まれる。身体全体を揺さぶられるような激しい抽挿が繰返され、リクと内側から溶け合っていくような錯覚さえする。
 身体が―――、心が―――、リクで満たされて行く。

「リク……駄目なの。んぁっ、はぁ、んっ…やぁんっ! いっちゃう、いっちゃうのぉ……」

「セロ……」

 お願いだから、そんなにも切ない声で呼ばないで。
 愛しいと思う気持ちがどんどん大きくなっていく―――

 幼い頃に植えられたリクへの恋の種は、発芽してどんどんリクと言う名の太陽に向かって伸びて行くの。
 リクの為に、私は大人になった。リク、私は貴方の求める“私”にどれだけ近づけていますか? いつか貴方の隣に立ち、共に同じ道を歩いて行ってもいいですか?

「リクが好き。んっぁ……、リクだけが好きなの。やぁっ、昔から…私にはリクだけなの。リクしか愛してないの。信じ……ああぁぁぁぁ!!」

「ボクもセロだけを愛してる。セロしか、イラナイ―――っ!!」

 グッと最奥を突かれ、セロは訪れた絶頂に身体を震わせた。リクもまた、力強くセロの身体を抱き締め、薄い膜越しに白濁を放った。



***



「もぅっ、リクの馬鹿。料理が冷めちゃったじゃない」

 情事の後、動けなくなったセロを風呂に入れて髪を洗ったり着替えさせたりと、リクは甲斐甲斐しく世話を焼いた。
 髪もしっかりとドライヤーで乾かし、尚も拗ねたように文句を言うセロをテーブルの椅子に座らせ、宥めるように額に口付けた。

「ウン。セロ、ゴメンネ? だけどセロも悪いんだヨ? ボクが居るのにクリスマスなんかに浮かれるから」

「セロが居るから、浮かれるのよ。だって、イヴは恋人と一緒に過ごすことが多いでしょう? リクと一緒に暮らす前は、お仕事で疲れてるリクにデートしてだなんて言えなかったんだもの。だから、リクが帰って来るお家で待っていられるようになって嬉しいの。だって、一緒に住んでいるんだから、時間を気にしなくて済むでしょう?」

 クリスマスが嬉しいのでは無く、リクと一緒に過ごすことの出来るクリスマスが嬉しいのだと、ちゃんと伝わっただろうか……

「フフ……、ボクをこんなにも喜ばせて、セロはやっぱり困った子だネ。じゃぁお礼に明日、セロの欲しがっていた冬の限定コスメを一緒に買いに行コウカ。明日はボク半ドンだから、昼食は待ち合わせて何処かに食べに行こう」

「本当!? 嬉しい! リク大好き!」

 先ほどまで拗ねていたのが嘘のように、セロはリクに抱き付いた。

「ハイハイ。ボクも愛しているよ、セロ。誰よりも―――」

 リクは壊れものを包み込むように、そっと背中に腕を回し、優しくセロを抱き締めた―――



*END*

 I wish you a Merry Christmas.





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