『節分』古川家の場合
「おかーさん、きょうは せちぶんだね〜」
幼稚舎からの帰り道、珍しく母親である沙羅が迎えに来てくれたことに凪はご機嫌だった。
「おー、賢いじゃん。良く知ってたな」
「えへへ〜。なぎ、おりこーさんだもん! あのね〜、せんせーがね〜、いってたの。なぎは よんこ おまめたべれるんだよ」
「今年は一粒増えて四粒だもんな。んじゃ、夕飯の食材と一緒に豆を買って帰ろうか」
「うん! あとね、おまめでおにさん やっつけるんだよ」
「そうそう。鬼を豆で追い払うんだよ。……あーあー、豆で鬼っつー、いかつい化け物は追い払えるのに、何で義皇は追い払えねーんだろ……。納得出来ねーよなー」
「……おとーさん? おかーさん、やっつけるのは おとーさんじゃなくて、おにさんだよ?」
きょとんとした顔で凪が言った。
「分かってるって。鬼をやっつけるんだろ? 今年も鬼さん家に来るらしいから、お母さんと一緒にやっつけようなー」
(追い払えないならせめて、鬼に扮したアイツをブチのめしてやる!)
「うん! なぎ、がんばる!」
沙羅の黒い腹の内など全く知らず、凪は嬉しそうに笑顔で頷いた。
その夜、古川家の庭では豆撒きをする子どもと女性の威勢の良い声と、鬼の悲鳴が響き渡ったと言う。
*『節分』END*
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