「テスト前日」霜月 蓮



 いよいよ明日から中間テスト。
 今日までがテスト準備期間で授業は短縮授業。いつもより早い放課だ。


「早く終わんないかな〜」


(そうしたら信さんに会えるのに……)


 信からはテスト期間中はテストに専念する為に会わないでおこうと約束させられている。
 家に行ってもいけないし、電話をかけてもいけない。信の息子である千早にお互いの様子を訪ねてはいけない。


(後一週間、声すら聞くことが出来ないなんて……。信さんは大人だから寂しくないのかな?)


 二週間も連絡を取り合わないなんて初めてのことなのに、信は平気なのだろうか。
 大人の余裕なのか、それほど蓮に関心がないのか。
 明日からテストだというのに、これではとても勉強に身が入りそうにない。


(とにかく、帰って勉強しなきゃ。悩んだってテスト終わるまで会いに行ったらいけないし)


 通学鞄に教科書やバインダーを入れ帰る支度をする。するとブレザーのポケットに入れていた携帯電話が震えた。この振動はメールの着信だ。


「誰からだろ……、信さん!?」


 携帯電話を取り出し、メールの受信BOXを開く。メールの差出人を見て蓮は声を上げた。


「どうして……」


(連絡はしちゃ駄目って……)



差出人:信さん
SB:お疲れ様、蓮
本文:
 突然メールしてすまないね。迷惑だったかい?
 会わない、電話をしないと言い出したのは私の方なのに、時間が空くとつい蓮のことばかり考えてしまってね。何度か千早に蓮のことを聞き出そうとしてしまったよ。
 電話をすれば会いたくなる。会えば腕の中から離したくなくなる。だから電話も会うことも禁止したのに、恥ずかしい話しだが今のままでは私の方が仕事に身が入らない。
 狡い考えだけど、私はメールは禁止していなかっただろう? だから一日一度だけメールのやり取りを許してくれないかい?
 いい歳をしたおじさんが我儘を言ってすまないね、蓮。連絡を待っているよ。

追伸:
 テストあけの週末にはデートをしよう。その頃には結果も返って来ているかな? 千早よりも成績が良かったら、蓮の行きたがっていたイタリア料理のお店を予約しておくよ。

長堀 信



「信さん……」


(信さんも、寂しいって思ってくれてるんだ……)


 メールの文面を読み、胸が熱くなってくる。
 毎日一度だけのメールだけど、このまま何の連絡も取り合えず不安を抱えたままよりかは遥かにマシだ。


(テストが終われば、信さんに会える……)


 毎日のメールを励みにしてテストを乗り越えよう。


「信さん……」


 携帯電話を両手で握り締め、祈るように瞳を閉じる。
 瞳を閉じ、瞼に浮かんでくるのは一番会いたい人の顔。


「帰って勉強しなきゃ。今回も長堀君には負けられないわ」


 自分に喝を入れ、蓮は鞄を肩にかけ教室を後にした―――



*END*



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