「青年とおにぎり」古川沙羅
※高校生時代


 昼食はいつも義皇が作って来るお弁当を食べているのだが、今日は義皇が風邪で休んでいる為、沙羅の昼食はコンビニのおにぎりと惣菜パンだ。
 昼休みに行われる聖徒会の仕事に行く前に教室で昼食を済ませ、余ったおにぎりを持って聖徒会室へと向かう。

「おはよう。珀明、レイヴン……って、何だよ。まだ皆来てないじゃん。もっとゆっくり来りゃ良かったな」

 聖徒会室にはまだ珀明とレイヴンの姿しかなかった。
 昼食を食べ終えたばかりなのか、応接スペースにあるテーブルの上に置かれた二人の弁当箱は空っぽだ。

「まだ昼休みに入って十五分も経っていないからな。まだ皆、食事をしている途中なんだろう」

「そうそう。早食いは太りますからねぇ」

「レイヴン。アンタ遠回しにあたしに喧嘩売ってんだろ。つーか、それを言ったらアンタ達も太るんじゃねーのかよ」

「残念でした。俺達のクラスは、ベルが鳴る十分前に授業が終わったんですよ」

「あーそう。そりゃ良かったな。それよりさ、まだお腹に余裕があったらさ、これ食べてくれない? 買い過ぎて余っちまってさ。中身は両方とも昆布なんだけと」

 余ったコンビニのおにぎりを聖徒会室に居る役員に食べて貰おうと思っていたのだ。丁度残りは二個。これはチャンスとばかりに、二人におにぎりを押し付けるように差し出した。

「良いのか?」

 受け取ったおにぎりと沙羅の顔を交互に見ながら珀明が言う。
 その顔がどことなく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

(弁当の量が少なくて腹減ってんのかな?)

「勿論。寧ろ食べてくれると助かる。レイヴンもな。お茶淹れてくるから、食べながら待っててよ」

「有難うございます。日本茶は蒸らす時間に気をつけて下さいね」

「へーへー」

 レイヴンにもおにぎりを渡し、沙羅はお茶の準備をする為に部屋の隅にある給湯スペースに向かった。
 きっちりと蒸らし時間を計ってお茶を淹れ、湯呑みを乗せたトレイを持って応接スペースに戻る。

「あれ? まだ食べてなかったの?」

 お茶が来るのを待っていたのか、二人の手の中にあるおにぎりは未開封のままだ。

「もしかして、お茶と一緒に食べるんだった? だったら、遅くなって悪かったな」

 二人の前にコトリと湯呑みを置いてやる。

「あぁ、有難う。いや、そうじゃなくて……、なぁレイヴン……」

「まぁ、そうですね……」

 何か言いたそうな素振りを見せる二人だが、それ以上口を開こうとしない。

「何だよ。言いたいことがあるならハッキリ言えよ。それとも何か? 二人共、昆布が嫌いなのか?」

「いいえ、そう言う訳ではありませんよ。寧ろ昆布は好きな具です」

「じゃぁ、どう言うことなんだよ」

(まさか今更、腹いっぱいだなんて言わねーよな)

 「返答次第ではただじゃおかないからな」と言えば、珀明が手に持ったおにぎりを見ながらおずおずと口を開いた。

「……北泉、これはどうやって食べるんだ?」

「……は?」

「ですから食べ方ですよ。正しくは、この包装の開け方」

「は? え、ええぇ!? そこから!? つーか、アンタ達コンビニのおにぎり食ったことねぇのかよ!」

「と言うか、私はコンビニに行ったことすらないんだが……」

「マジか!」

「俺もありませんよ」

「レイヴンも!?」

(まさか現代社会でコンビニに行ったことがない奴が居るなんて……。珀明はまぁブルジョアだから仕方ないかもしんねーけど、レイヴンもコンビニ行ったことないなんて……)

 友人との間に、軽いカルチャーショックを受けた沙羅だった。


*END*

 後日、沙羅・義皇・堕希・珀明・レイヴンの五人で学園近くのコンビニに行きましたとさ。
 初めて見るカップラーメンやお菓子、おにぎり等に沙羅と義皇以外のメンバーは大興奮。




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