「青年達とコンビニ」古川義皇
「青年とおにぎり続編
※高校生時代




「それでは、右手側をご覧下さい。ここがコンビニ“ソレイユ”でーす」

 バスのツアーガイドの如く、沙羅は手で右側にあるコンビニを指した。

「へぇ〜、ここがコンビニですか」

「ソレイユ……、太陽か……」

「ねぇ沙羅、早く入りましょ! 前に沙羅が学園に持って来てたポテトチップスもあるんでしょ!?」

 珀明とレイヴンのコンビニおにぎり初体験から数日経った放課後、沙羅・義皇・堕希・珀明・レイヴンの五人は学園から程近いコンビニに来ていた。
 あの日の翌日に義皇と堕希にレイヴンと珀明の話をすると、じゃぁいっそ皆でコンビニに行こうと言う話になったのだ。

「こらチビッコ、騒ぐな。店の前で騒ぐと迷惑になるだろうが。んでもって、沙羅から離れろ」

 店先でキャッキャッと騒ぎながら、沙羅の腕に自身の両腕を絡ませる堕希に義皇が注意をする。付け足すように沙羅から離れろと言ったが、どう考えても重要なのはそちらだろう。

(相変わらず嫉妬深い男ですね、義皇は……)

(全く……。古川は北泉に脈がないことに、いつになったら気が付くんだ……)

 珀明とレイヴンは哀れな親友を心の中で嘆いた。

「ストーカー男はおだまりなさい! 私は沙羅に言っているのよ。義皇には嫉妬って感情を持つことすらおこがましいわ」

 小柄で腰まであるウェーブの掛かった金色の髪と白い肌。見た者全てが美少女だと言うであろう甘いロリータフェイスから発せられた言葉は、その可愛いらしい容姿からは想像も出来ない程に毒を含んでいた。

「ストッ……!? 誰がストーカーだコラ! お前こそ女のクセに沙羅にベタベタしやがって、気色ワリィんだよ!」

「あら、義皇ごときに気色悪がられるぐらい、どうってことないわ。寧ろ望むところよ。私は家族と沙羅と雅(みやび)君以外はどうでも良いんだから。それに、沙羅も義皇よりも私の方が好きでしょう?」

「んー。好きっつーか、寧ろ大好き?」

「あぁぁん! 私も大好きよ!」

 ふふん…と、これ見よがしに沙羅の腕に絡めた両手に力を込める。そして「どう? 羨ましいでしょう?」と、優越感に浸った笑みで義皇を見た。
 しかし、義皇には堕希の勝ち誇ったような顔よりも沙羅の言葉に衝撃を受けていた。

「―――っ!?」

「あっちゃー。言い切りましたね。義皇、完全に固まってますよ」

「あぁ。北泉ももう少し時と場所を考えれば良いものを。誰がフォローをすると思っているんだ」

 沙羅と堕希に返り討ちに合った義皇をフォローするのは、何故か毎回珀明とレイヴンだ。
 沙羅と堕希はいつもと同じように、義皇のことなど視界に入っていないかのようにコンビニの中へと入って行ってしまった。

「……置いていかれましたね」

「私達も無視とはな……。堕希は北泉しか眼中にないから仕方ないが、北泉は私達が何とかするだろうと任せる気満々だろう」

 それもまたいつものことだ。きっとこれからも、皆の道が別つまでは続いて行くのだろう。
 それがいつまで続いて行くのかは分からないけれど、学園を卒業してからも、この心地の良い関係が続いて行けばいいのにと思う。

「行くか」

「そうですね。はい義皇、行きますよ」

 互いに肩を竦め、先に店内に入った二人を追うようように、珀明とレイヴンは義皇の身体を引きずって店内へと入って行った。


***


 コンビニは一般的に入ってすぐ左右どちからにレジ、窓側には雑誌コーナー、店内奥にペットボトル等の飲料水コーナーがあり、その付近にパンやお握りのコーナーがある。

「ねぇ沙羅、このパイ●実って美味しいの?」

「あたしは好きかな。パイ生地の中にチョコが入ってるんだよ。他はじゃが●ことかポッ●ーとかもお勧めかな。あ、ポテチなら王道のコンソメとうすしおな」

「じゃぁ、コレとコレと……」

 先に店内に入った沙羅と堕希は、早くも買い物かご二つをお菓子や飲料水で一杯にしていた。
 遅れて来店した珀明達も現在はインスタントラーメンコーナーに来ていた。こちらも買い物カゴの中は既におにぎりや飲料水、コンビニスイーツで一杯だ。

「これがカップラーメンですか。同じ味でも何種類もありますね」

「ちゃんぽんに焼きそば、パスタまであるのか……」

「出してるメーカーが違えば、同じとんこつでも味が違うからな。新商品もどんどん出るし」

 初めて見るカップラーメンに興味深々だ。

「まずは王道でカップヌ●ドルだろ。んで、シーフード。うどんだとどん●衛、焼きそばならU.F.●.、パスタならス●王のミートソースってとこか。後はお前らの好きな味のラーメン入れとけば良いんじゃね?」

 種類が多くて選べないと言う二人の為に人気商品を選んでやり、後は好きなのを選べと言っても二人はパッケージをしげしげと見詰めるばかり。

「レイヴンは何味が好きなんだ? とんこつ? 塩? もしかして味噌か? 何で二人とも商品を見詰めるだけでカゴん中に入れないんだよ。あっ! はっ! えぇ! も、もしかして……」

(ラーメン食ったことない……とか? いやいや、おにぎりは食った事ないって沙羅は言ってたけど、いくらブルジョアだからってカップラーメン食った事くらい……)

「……非常に申し上げ難いんですが、お察しの通り、俺達はラーメンやうどんを食べたことはありません」

 酷く申し訳なさそうにレイヴンが言う。

「やっぱりか! がぁぁ! んだよお前等、庶民を見下してんのか!? ラーメンっつったら夜食の定番だろ! おやつだろ! 晩飯までの繋ぎだろ!」

 比較的富裕層に生まれた子どもの集まる学園には、珀明達のようにコンビニへ行ったことのない生徒の方が多いのだろう。インスタントラーメンどころか、インスタントコーヒーすら飲んだことの無い者も多いに違いない。

(何かやりきれねぇ。つーか、マジで一発殴りてぇ)

 沙羅に引き続き、義皇までも親友だと思っていた珀明とレイヴンにカルチャーショックを覚えた。
 その後、各々好きな商品を買い物カゴに入れて行き、迎えた会計。そこでも起こる、ひと悶着。

「んなっ!? 沙羅と俺以外に財布持ってないってか!」

 会計と言う段になって、沙羅と義皇以外は財布を持っていないことが判明した。
 学園へは車送迎で寄り道もなし。学園のカフェでは現金も使えるが、会計時に学生証を出せば月末に登録している口座から自動的に引き落とされる為、学園に財布を持って来ていなくても特には困らない。
 おまけに、沙羅の「今回は義皇が奢ってくれるって! 支払い宜しくな!」の一言で義皇が支払いをすると言う空気となり、抗議しようとすれば今度はレイヴンに「沙羅女史の株を上げるチャンスですよ。ただでさえ大暴落中なんでしょう?」と耳打ちされる始末。
 レイヴンはこれで沙羅の株が少しでも上がるのならと、支払いをすることとなった。

 買い物カゴ山盛り五個分のお会計―――

「お会計、28,672円です」

「にまっ――っ!?」

 店員のお姉さんの軽やかな読み上げに、義皇は言葉を失った―――



*END*


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