『先生の仮面』



 それは、二年生になって少し経った頃の出来事―――


 今日は部活の日。
 けれど、委員会の用事があって少し遅刻気味だ。
 遅れる旨をメールで伝えているけれど、早足で第二化学室へと向かう。


「先生、待たせてごめんなさい」


 化学室に入って直ぐにそう口にするが、室内から返事が帰ってくることはなかった。


(あれ? 先生居ないのかな?)


 そんなことを考えながら、いつも使っている実験机へ近づいていく。


「あ! 先生……」


 入口からは死角になっていた机に、椅子に座ったファントムが俯せになっている姿が見えた。


(先生……、寝てる?)


 近寄っても、先生はぴくりとも動かず、規則正しい寝息が聞こえている。


(疲れてるのかな。起こすのも悪いし、少し待ってようかな)


 優実はファントムの隣の椅子に座り、寝顔を見る。
 寝顔と言っても、仮面越しの為寝顔は見えないのだが。

 ファントムの寝顔を……いや、仮面を眺めていた優実はあることに気付く。

 今なら、ファントムの素顔を見れるのではないか? と。


「ちょっとくらいなら、良いよね? 先生は後悔するって言ってたけど。大丈夫、大丈夫……」


 自分に暗示をかけるように繰り返し、ファントムの仮面に手をかける。
 
 そして、ゆっくりと慎重に仮面を外した―――


「―――ヒィッ!」


 仮面の下を見て、優実は悲鳴を上げた。
 
 仮面の下に“仮面”があったからだ。


(なんで仮面の下に仮面!?)


 しかも、さっきの仮面と表情が違い眉がつり上がっている。


(……怒り顔? 外すなってこと?)


 優実の悲鳴にファントムの肩がビクリと揺れる。

 そして……


「ん……、相楽さん?」


 ファントムが目を覚まし、優実の名前を呼んだ。
 身体を起こし、軽く伸びをしてから隣でまだ驚きから抜け出せていない優実の方を見る。


「相楽さん?」


 反応を示さない優実にファントムは再び声をかけ、優実の手の中にある仮面の存在に気付く。


「あぁ、仮面取っちゃったんですね。でも、残念でした」

「な、なんで仮面の下に仮面してるんですか!?」


 ようやくショックから立ち直り、ファントムに問う。


「君のような生徒対策。この仮面はとても薄く出来ていてね。常に十枚以上着けているんだよ」

「十枚!?」


(それはちょっと、いや……かなり用心し過ぎなんじゃない?)


 普通の生徒はファントムを恐れて近づくことすらしないし、新聞部も記事の為とはいえそこまで非道なことはしないだろう。


(なのにそんなに仮面を着けるということは、つまり……)


「先生、そんなに顔悪いの?」


(壊滅的に……)


 優実の手から仮面を受け取り、ファントムは仮面を装着した。


「さぁ? それはどうでしょう。ご想像にお任せします」


 否定とも肯定とも取れる言葉に、優実は顔を強張らせた。
 その日から、優実は仮面を二度と剥がないと心に誓った。

 冷静な声で優実をあしらっていたファントムだったが、実はその仮面の下で冷や汗をかいていたと言うのは、また別の話。


 この日以降、ファントムは仮面を二十枚近く着けるようになったとか、ならなかったとか……



*END*



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