「七夕〜古川家の場合〜【おまけ】」義皇+珀明+レイヴン



「背中を蹴られたって言ってましたけど、大丈夫なんですか? ほら、沙羅女史は男性を殴るのに躊躇いなさそうじゃないですか」

「うん? あぁ。実際、全く躊躇わないぜ。これ見ろよ」


 義皇は着ていたTシャツを脱ぎ、背中をレイヴン達に見せた。
 店内の照明はやや暗めだが、それでも背中にくっきりと赤い跡が広がっているのが見てとれる。


「これは……、凄いですね」

「と言うか、背中に所々ある紫色の痣は何だ? 打ち身か?」


 珀明が指摘したのは、背中一面にまばらにある紫色の痣だ。
 見るからに痛々しい痣は、消えかかっているものから比較的新し目の物まである。


「あぁ、沙羅にヤられた」

「何でもない事みたいにケロリと言われるとは、恐ろしいですね。これなんか内出血してるじゃないですか。これ、かなり痛いでしょう」

「……DVならいい弁護士を紹介するが? いや、それよりも成形外科が先か……」

「うんにゃ、平気。沙羅の暴力は愛情みたいなもんだし。慣れてるから大丈夫だ。沙羅になら、例えあばら骨折られても嬉しいし」

「暴力が愛情って……、嬉しいって、どんだけ沙羅女史を好きなんですか貴方は」

「だってさ、沙羅って俺の事嫌いじゃん? その沙羅がまだ離婚しないでいてくれてるんだから、殴られるのくらい何ともないって。本当に嫌いなら殴りもしないわけだし。殴られるってことは、まだ俺に多少なりとも関心があるってことだろ? まぁ、なんつーの……愛情確認?」


 嬉しそうに言う義皇に、レイヴンと珀明は言葉を失った。
 殴られることで愛情を確認するとは、重度のマゾヒストではないか。


「……病んでますね。それもかなり。在学中からMの片鱗はありましたが、まさかドMになっていたとは……、驚きですよ」

「あぁ。まずは心療内科が先だな……」


 義皇のまさかのドM発言に、ヒソヒソと言葉を交わすレイヴンと珀明。
 義皇と結婚した沙羅を可哀想に思っていた彼等は、今日初めて、沙羅と結婚した義皇を可哀想に思ったのだった。



*END*



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