「大成功? 大失敗? エイプリルフール事件」義皇+珀明+レイヴン
(拍手「『七夕〜古川家の場合〜』後日談」で、義皇のエイプリルフール結婚事件に巻き込まれたレイヴンと珀明の話)




 四月一日。世間ではエイプリルフールと言われる日であるが、興味のない人間にとっては普通の日である。
 その日の正午前、珀明とレイヴンは会社から程近いカフェに義皇から呼び出しを受けていた。


「何ですか義皇。いきなり印鑑持ってカフェに来いだなんて」

「こちらはこの後会議がある。用件があるなら手短にしてくれ」


 店内の一番奥の席に座っていた義皇に、仕事を抜けて来た珀明とレイヴンは開口一番に告げる。
 事実、十五分程前に突然かかって来た電話を受け、無理矢理会議の時間をずらしたのだ。

 電話の内容は、「一生のお願いだから、今すぐカフェに印鑑を持って来てくれ」だ。


「悪いな、無理言って。時間がないのは俺も同じだから手短に言うけど、印鑑持って来てくれたか?」

「あぁ、言っておくが借金の保証人にはならないからな」

「非合法な書類にもサインしませんからね」

「イヤイヤ、お前等は俺を一体何だと思ってんだよ。俺が印鑑が欲しい理由はこれだよ」


 義皇は傍らに置いていた鞄の中から一枚の紙を取り出し、テーブルの上に広げた。


「これは……」

「婚姻届……ですね。一体誰の……って、えぇ!? 貴方と沙羅女史が!?」


 広げられた婚姻届に書かれた名前にレイヴンと珀明は思わず目を疑った。
 そこに書かれた名前が有り得なかったからだ。
 夫の欄にある義皇の名前は良いとして、問題は妻の欄だ。そこには北泉沙羅と書かれている。それも間違いなく沙羅の筆跡で、だ。

 義皇と沙羅は幼なじみで、家も向かい同士。在学中から義皇は沙羅に何かとアプローチしていたが、その度に沙羅から罵られたり殴られたりしていた。


(明らかに義皇を嫌っていた筈の沙羅女史が、何故義皇と結婚を……)


「偽造……、ではないのか?」


 信じられないのは隣に座る珀明も同じらしい。眉間に皺を寄せ、確かめるように婚姻届をじっと見つめている。


「偽造じゃねーよ。ちゃんと沙羅の字だろーが。何でようやく沙羅が俺の気持ちを受け入れてくれたって思わないわけよお前等は」

「それは無理でしょう」

「北泉がお前に根負けしたって言われた方がしっくりと来るんだがな」

「あー、案外そうかもしれませんね。見栄張ってるだけですか」


 寧ろそちらの方が想像し易い。


「コラッ、ソコ。うるせーぞ。で、倉橋とレイヴンには婚姻届を出すに当たって、証人になって貰いたいんだよ。ホラ、ココ」


 トントンと指で婚姻届の左側にある空欄の証人と言う項目を指される。
 証人には二人必要なのか、署名押印をするスペースが二つある。


「へぇ〜、婚姻には証人が必要なんですね」

「だが、証人は一般的に両家の父親がなるものではないのか?」


 証人には成人している人なら誰でもなることが出来るが、両家の父親が署名押印するのが一般的だ。


「あぁ、何か俺んとこも沙羅んとこも証人は親友にお願いしたとかで、俺達にもそうしろって。悪魔に頼んだら間違いなく紙を破られて、社会的にも抹消されかれないから無理だし、だから二人に頼もうと思ってさ」


 悪魔とはレイヴン達の親友・堕希(だき)のことだ。沙羅の事を大好きな彼女が、二人の結婚を黙っている筈がない。


「それが賢明ですね。そう言うことなら、喜んで証人にならせて頂きますよ。おめでとうございます、義皇」

「おめでとう、古川。北泉にも宜しく伝えておいてくれ。後日、祝いの品を届けさせよう」

「おう、あんがとな。楽しみにしてるぜ」


 こうして、エイプリルフールに珀明とレイヴンをまんまと騙し、義皇は正午前に見事、市役所に婚姻届を提出したのだった。



*END*


おまけ


「今……、何て?」

「だ、だから……婚姻届を市役所に提出しちゃったって……」

「はぁぁぁ!? 婚姻届を提出しただぁ〜!? ざけてんじゃねーぞ、この馬鹿が! 何てことしてくれてんだオラ! エ・イ・プ・リ・ル・フールの嘘にも程があんだろが!」

「痛、いっ―――! ぐぇっ……くびっ、首絞まって……」

「いっそこのまま地獄に行け!」

「だっ…て、エイ…プ……ルは、午後、に…嘘をバラすっ、て……」

「エイプリルフールに嘘をついていいのは午前中までで、午後には嘘をバラすってか? だからテメーは午前中に市役所に提出に行ったってか!? はっ倒す!」

「うで…入ってる、……ぁっ、入って、るから……ぅぐっ! いきが……」

「あん? ちょっと待てよ、婚姻届って確か証人が必要なんじゃなかったか? 証人は誰に書かせたんだよ。まさかおじさん達か? それなら絶対に阻止してくれる筈なんだけど」

「……はっ! はぁっはぁっ……し、死ぬかと思った」

「そりゃ惜しかったな。で? 誰よ、証人は」

「倉橋とレイヴン……」

「珀明とレイヴン!? 珀明とレイヴンかよ! くそっ。あんにゃろう……、裏切りやがったな。親友だと思ってたのに、あたしが義皇を嫌いなのを知ってて署名するなんて……。絶対に許さん!!」

「――えっ!? ちょっ、どこに行くつもりだよ。まさか……」

「ちょっと珀明とレイヴンんとこ行ってくる。今からここに堕希を呼ぶから。あたしが帰って来た時にアンタがまだ生きてたら、今度はあたしが相手をしてやるよ」

「待てっ! ――ちょっ! 両手と両足を紐で結ぶな! 痛っ! 絞めすぎだ! 倉橋とレイヴンは悪くないから止めてくれ! 悪魔を呼ばないでえぇぇぇ!!」


 その後、沙羅はアポなしで珀明の会社に乗り込んで行き、自分達も騙されていたとは言え、沙羅の経歴に傷を付けてしまった事に罪悪感を感じた珀明とレイヴンは、黙って腹部に強烈な一撃を受けた。
 また、五人の友情に深い亀裂が入ることになったのは言うまでもない。



*END*



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