「最終話 瑪瑙」(2)



「葉月、怪我は無いか?」

 珀明は、光明の腕を捻り上げ取り押さえている葉月に視線を向けた。

「はい」

 葉月は日頃の穏和な表情が嘘のように、冷たい表情で答えた。

「処分は任せる」

「御意」

 珀明は奏を抱きかかえ、部屋を出て行く。

(まさか珀明さんが助けて下さるなんて……)

 自分を犠牲にする人ではないと思っていた。だけど……

「どうして……、助けて下さったのですか?」

 奏の部屋に運ばれ、ベッドの上に下ろされた。

「お前は私のモノだろう?」

 初めて、奏はその言葉が嬉しく思った。
 人格を無視した、物みたいな扱いが嫌だった。無理矢理抱かれるのも……。けれど、珀明は奏を身を呈して助けてくれた。
 嬉しくて、溢れた涙が頬を伝っていく。

「怖かったのか?」

 珀明の言葉に、頭を振る。

「んっ……」

 労るように、頬に口付けられる。
 珀明の唇は涙を舐めとるように吸ったあと、奏の唇を塞いだ。涙の味のキス。
 舌を吸われ、互いに絡ませ合う。

「あんっ……んぅ……」

 キスをしながらワンピースと下着を脱がされ、露になった胸の膨らみを包み込むように揉まれる。

「あんっ、あっ……あんっ」


 自分の気持ちに気付いた身体は素直で、珀明から与えられる刺激に身体が敏感に反応してしまう。
 珀明はいつもより感度の良い奏の身体に目を細め、蕾に顔を寄せた。

「やっ……! きたな……っ……んん!」

 膣内に舌を差し込まれ、唾液を送り込まれる。
 舌が出し入れされる度に、ピチャピチャという卑猥な水音が響いた。
 指をニ本挿入され、入口を広げるように指を動かされる。

「んんっふっ……あぁ!」

 鉤のように曲げられた指先がGスポットに当たり、次第に身体が熱くなっていく。
 指を動かされながら愛芽を吸われ、ビリビリと電流が流れるような快感が身体を走った。

「んんん……!」

 強い刺激に達しそうになった所で、指を引き抜かれる。

「はぁ、ん……」

 指を咥えていた部分が疼き、奏は熱い息を吐いた。
 珀明はスラックスを寛げ、猛々しい楔を取り出した。
 赤黒い雄は天を向いて膨れ、先走りの精液が差し込む日差しに反射して光っていた。

「挿れるぞ」

 蕾に亀頭を宛がうと、ゆっくりと蕾が屹立を呑み込んでいく。

「あぁっ……んんっ!」

 何度受け入れても、カリの部分が入るまで少し痛みを感じる。
 全てを受け入れ、珀明のスラックスの布とベルトの金具が太腿に触れる。
 奏の息が落ち着くのを待って、珀明は腰を打ち付け始めた。

「ああんっ! ……はぁんっあっあっ!」

 始めから激しく律動を開始され、燻っていた熱が大きくなっていく。
 珀明が動く度、ベッドがギシギシと音を立てて軋んだ。

「や……激し……はあっ、ふあぁっ……あんっ……あっあぁっ……!」

 指で散々煽られていた身体は、激しい抽挿に呆気無く登りつめてしまう。
 けれど、息が調う間も無く律動の速度が増していく。

「あっ! あっ! あぁっ……!」

 膣内の楔もドクドクと脈打ち、膨らんでいるのがわかる。
 珀明は奏の顔に唇を寄せ、口づけた。

「うっ……、ふぅ……」

 優しいキスに内壁が絞まり、珀明に絡みつく。
 キスを交わしながら、珀明は一瞬息を詰まらせた。その瞬間、最奥で珀明の雄が弾けた。断続的に注がれる熱い精液。
 初めての時から中に出されるのが当たり前で、今ではその感覚にすら感じてしまう。

「あっ!」

 果てた筈の珀明の楔は放出しながらもまだ硬く、膣内でドクドクと脈打っていた。

「まだだ」

 キスを交わしながら、珀明が囁いた。
 低く甘さを含んだその声に、ゾクリと奏の肌が粟立った。

「ふぅ……、あっ、あっ……ああんっ……!」

 子宮口を目掛け、深く律動が繰り返される。膣内に出された精液が潤滑油となって、抽挿がスムーズになる。
 珀明は奏の背中を掻き抱き、穿つスピードを速めていった。
 蕾から精液と愛液とが混ざり、泡立ちあったものが律動の度溢れ出す。珀明はそれを見ながら、膣内を強く穿っていく。

「ふあ、はぁん……っ、……ひ、あぁぁんっ!」

 珀明に抱かれながら、奏は暖かな日差しの中快楽の波に呑まれて行った――― 


***


「ん……」

 目を醒まし、ベッドの隣を見ると既に珀明の姿は無かった。

(どこに行ったのかしら?)

「あっ……!」

 床に足をつこうとすると、花瓶で切った足に包帯が巻かれているのに気付いた。
 身体も綺麗に拭われている。

「起きたか」

 隣接したバスルームから、珀明が出て来る。前髪を下ろした珀明が新鮮で、奏は思わず見とれてしまう。
 珀明はベッドに腰掛けた奏の側まで来ると、奏の身体を持ち上げベッドの中央に下ろした。

「怪我に障る」

 相変わらず、短くて冷たい言葉。だけどもう気にはならない。

(きっと珀明さんは、沢山の重みを背負っているから……)

「お前に話がある。もう叔父上もお前を脅かすことはないだろう。……家に戻るか?」

(―――え?)

 珀明の言葉が信じられず、奏は珀明の顔を見詰めた。

「どうして……」

(急にそんなことを?)

「元々、横領をしていたのは叔父上で、お前の父親は巻き込まれただけだ。叔父上は当主の座を狙って、“奏”を手に入れようとした」

 珀明の説明に、頭の中であの男の人との会話と合わさり、ピースが嵌め込まれていく。

「全て、私を守る為だったのですね」

 無理矢理花嫁にしたのも、屋敷に軟禁したのも―――
 全ては奏を守る為―――

「用が無くなれば、私は必要ないんですか?」

(私の持つ“奏”の力は、必要ないんですか……?)

 珀明には一度も、力を利用されたことはなかった。
 一度だけ言われたことはあったが、結局力は使われなかった。奏の力が無くても、珀明は何でもこなしてしまう。
 涙を目に溜めれば、奏を見つめる珀明が溜息を吐いた。
 珀明は優しく奏の頬を両手包み込む様に触れた。

「約束しただろう? お前が大人になった時、当主に“奏”の力は必要ないかもしれない。もし必要だった時は、私が守ると」

 それは、“奏”になった日に出会った青年との会話……

(まさか……)

「珀明さんだったの……?」

 口数は少ないのに、優しく慰めてくれた人。
 今の珀明とは、雰囲気が全く違う。

「当主になって、約束が守れると思った。お前はもう『奏』に縛られなくていい、瑪瑙……」

 “瑪瑙”……、“奏”になってから、誰も呼ばなくなった奏の本当の名前―――

 思い返せば、再会してから珀明に“奏”と呼ばれたことは一度も無かった。
 奏は珀明に抱きつき、バスローブを握り締めた。

「家には帰りません。私は珀明さんの妻なのでしょう? 力を必要としない珀明さんに、私は必要ありませんか?」

 珀明に自分から抱きついたのも、責めるように言葉を多く発するのも、初めてのこと。
 珀明はやはり何も言ってくれず、ズキリと胸が痛んだ。

(私は貴方のモノじゃないんですか?)

「私は、珀明さんが好きな……あっ……んぅ!」

 告白半ばで、キスによって唇を塞がれてしまう。
 ベッドに押さえつけられ、吐息を奪うような口づけが繰り返された。

「んっ……」

 唇が離れ、耳朶を甘噛みされる。そして、低い声で囁かれる言葉―――

「―――愛してる」

 覆い被さるように、珀明に抱き締められる。

(不器用で、とても優しい人……)

「私も、愛しています……」

 奏は珀明の身体の重みを受け止め、幸福を噛み締めるように背中に回した手に、力を込めた―――



「最終話 瑪瑙」終



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