『ブルーローズ』



「ブルーローズなんて、珍しいですね」


 仕事から帰宅した珀明から、奏は青い薔薇の花束を手渡された。


その花は、ブルーローズ。


 青の色素を持つ原種の薔薇がない為に、作ることは不可能だとされていた青い薔薇。
 遺伝子改良によって開発された青い薔薇は、市場にはあまり出回っていない。


(青い薔薇の花束なんて、初めて……)

「どうなさったんですか? この花束」


 ソファに座り、ネクタイを緩めている珀明に奏は尋ねた。


「買った」


(買ったって……、そうだと思いますけど……)


 花束は買うか貰うかしかないだろう。しかし、奏が聞きたかったのはそういうことではない。


(でも、珀明さんが花束をプレゼントして下さるだなんて……)


 奏が珀明からプレゼントを貰ったのは、水族館に行った時とクリスマスプレゼントの二度だ。
 この花束は三度目のプレゼント。


「本当に綺麗ですね」


 奏はベルベットのような手触りの花びらをそっと撫でた。


「でも、珀明さんがお花を買うなんて珍しいですね」


 珀明が花屋に行くなんて、正直想像がつかない。
 珀明は一体どんな顔でこの花束を買い求めたのだろうか。


(それとも、レイヴンにでも頼んだのかしら……?)


 奏の言葉に、珀明は奏に抱えられた花束に視線を落とした。
 何かを懐かしむように、珀明の口元が僅かに緩む。


「まぁ、そうだな。昼休みに花屋に行くと言ったらレイヴンに酷く驚かれた。青い薔薇は、母が生前好んでいた花だからな」

「珀明さんのお母様が?」

「ああ。今日は母の誕生日だからな。墓前に花を供えてきた」

「珀明さん……」


(おひとりでお花をたむけに? あっ……!)


 そう言えば幼い頃に両親から、珀明の両親の棺の中に入れる花を、前当主は白い花ではなく青い薔薇で埋め尽くしたという話を聞いたことがある。


「いいですね。お誕生日に好きな花を贈られるだなんて……」


 自分の好きな物を、ずっと覚えてくれる人が居る。
 それは、とても嬉しいことだと思うから……


「なら、来年お前の誕生日に買って来よう。この花は、私も気に入っている」

「珀明さんも、ですか?」


 新たな発見に、奏の心が弾む。


「私が生まれた時、両親から最初に贈られた花だ。花言葉は“神の祝福”と言う」


 名前よりも先に、与えられた“青い薔薇”


 ―――“神の祝福”


〈神様からも、祝福されますように――〉


「素敵なご両親ですね。今度は私も一緒に連れて行って下さい」

「ああ、そうだな……」


(今度は私と珀明さんが、青い薔薇の花束を携えて会いに行きます)



 空の下で眠るお二人へ、神様からの祝福を―――



*『ブルーローズ』END*

さき様に捧げます。
キリリク有難うございました。



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