『仮装パーティー』(2)



 唇が離れ、珀明の手がドレスのファスナーをゆっくりと下げていく。
 露になった白い胸に、口づけを落とす。
 ちゅっ…と濡れた音を響かせて赤い花を咲かせ、胸の飾りを吸われる。奏は羞恥で頬を赤らめた。
 珀明はドレスの裾を捲り、奏の下着を取り去った。
 濡れた蕾に二本指が挿入され、膣内の具合を確かめるようゆっくりと動かされる。


 「んっんっ……!」


 指が動かされる度、奏の口からは甘い声が零れた。
 涙でぼやける視線の先では、珀明が辛そうに眉を寄せている……


(どうして……、そんな顔をするの……?)



***



「あっ、あんっ! はぁっ、あぁっ、あっあっ……んぅっ!」


 律動を繰り返される度、ベッドの上で身体が跳ねる。
 珀明が怒っている理由も、奏を見て辛そうな顔をする理由もわからないまま。
 奏はただ、珀明から与えられる甘い刺激に酔いしれるだけ……


「んはっ…っ、やん……」

「お前は私から……、離れたいのか?」


 低く、囁くような声。


「え……? ……ひゃんっ!」


 上手く聞き取れなくてもう一度問い返せば、まるで咎めるように子宮口を穿たれる。


「お前が空へ飛び立とうと、必ず捕まえて鎖に繋いでやる」


 そう言うと珀明は、奏の腰に引っ掛かっているドレスについた翼を掴んで引き千切った。
 その反動で、羽根が宙をフワリ…と舞った。


(綺麗……)


 ひらりひらりと舞い降りてくる羽根が綺麗で、奏は思わず宙に手を伸ばした。


「……あっ…!」


 もう少しで手のひらの上に羽根が落ちてくるというところで、珀明に腕を掴まれてベッドに拘束されてしまう。


「あぁんっ! ……あっあんっ!」


 両手を顔の横に固定され、ズプズプ…とまるで突き刺すような律動を開始される。


「……あっ…あん、はぁんんっ!」


 快楽の波に呑まれる中、奏は珀明の言葉の意味を考える。


『その礼にでも、踊っていたのか? 随分楽しそうだったが』

『お前が空へ飛び立とうと、必ず捕まえて鎖に繋いでやる』


(ねぇ、珀明さん。自惚れてもいいですか? 私をパーティーに参加させなかったのは、少しでも起こりうる可能性を無くす為だったと。誰も私にダンスを誘わないように、と……。そして、レイヴンと踊る私が、貴方の傍を離れるのではないかと心配していたのですか?)


 奏は、腕を掴む珀明を見上げた。


「んんっ……! 私はあの日、自分の意志でここに居ることを決めました。貴方と一緒に居ると……。だから私は、何処にも行きません」


 珀明には自信がなかった。
 奏が自分への恋を自覚する前に、無理矢理身体を繋いだ故の不安。
 その為に、心が通じ合った今でも突然奏が腕の中から居なくなってしまう気がしてならない。

 奏が好きだと言うあの頃の自分は、何処にも居ないから。
 だから例え、使用人を信頼していても近寄らせたくはなかった。
 レイヴンと踊って笑っている奏を見て嫉妬に狂い、奏に無体を強いる。
 それでも……


「お前は……」


(私の傍に居るというのか……)


 奏を掴んでいた手の力が緩むと、今度は逆に奏が珀明の手を強く握り締めた。


「……愛しています」


 まるで花が綻ぶように、奏は笑った。
 十歳以上も年下の幼い少女は、ことごとく珀明の想像の上を行く。


「本当に、お人好しだな」


 奏の手を繋いだまま、珀明は律動を再開する。


「んっ…あんっ、はぁぁ…やっ激し……」


 あまりの激しさに、また快感による涙が瞳から溢れ出す。


「やんっ、あっあっ…だめッ…もう……」


 穿つスピードは衰えず、珀明の楔は奏を追い上げていく。

 涙で滲む目で、奏は珀明を見つめる。
 珀明の眉間からは、先程まであった皺が無くなっていた。

 奏はホッと胸を撫で下ろした。


「んっ、あんっ、あああ!」


 膣内が絞まり、内壁がうねるように珀明の楔に絡みついた。


「くっ……」


 胎内で珀明の男根が一瞬大きく張り詰め、ゴムに被われていない楔が弾ける。


「あ……」


 膣内が愛液ではない白濁液で濡らされていく……


「んっ……ふぅ」


 楔を埋め込まれたまま、息も整わないうちに口づけを交わした。



***



 窓から見える空が白み始めて来た頃。
 奏達は窓辺でダンスを踊っていた。
 衣装はネグリジェとガウンで、曲を奏でる楽器もないけれど……
 それでも構わなかった。


「珀明さん、また踊ってくれますか?」


 珀明のリードが上手くて、奏は軽やかにステップを踏むことができる。


「機会があればな」


 珀明は相変わらず淡々とした口調で、表情も変わらない。


「ありますよ、きっと」

(今度はドレスを着て、ちゃんとした場所で珀明さんと踊りたい)


 もうすぐ、夜が明ける。


 ―――朝が来ればきっと、昨日より貴方を好きになる。



『仮装パーティー』終




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